記録をとる
読書は難しい。しかし、記録をとることはそれよりずっと難しい。僕らは一冊の本に目を通すたびに言いたい文脈や、頭の奥に残る風景が積もる。それは都心に降る新雪のようで、積もるたびにすぐに溶けてなくなってしまう。いくら読んだ本を指折り数えても、アスファルトは以前として灰色のままだ。
人は忘れる生き物だ。それは仕方のないことだ。一部の天才を除いて、見聞きしたことをそっくりそのまま覚えていられる人は存在しない。「それでも僕は、私は覚えていたいんだ」。それなら外部記憶を味方につけよう。PCにバックアップをとるように、人間にもUSBメモリや外付けHDDが必要だ。
何を使えばいいか。京大式カードである。
京大式カードを使った読書記録は、梅棹忠夫が自身の著作である『知的生産の技術』で述べている。
京大式カードとは、B6の大きさに何本かの罫線が引かれているカードである。やや厚めで保存も容易だ。見たところ大きいと感じるかもしれないが、使ってみると大きな字でたくさんの文量を書けるので精神衛生上とてもいい。
書き方は『知的生産の技術』にも紹介されているが、今回は僕なりのやりかたを載せる。僕が知りたいことは二つ。「何を読んだか」、「何が書かれていたか」だ。
前者はカードの左上に日付と通し番号、中央に本のタイトル、右に著者と出版社を書く。ついでに初版と自分が持っている版数も記入しておく。カードに書くのはこれだけだ。「え?これだけ?」と思うかもしれないが、ここで重要なルールを示しておく。ひとつのカードにはひとつの事柄しか書いてはいけない。どんなに短い文章でもひとつのカードへ、が原則だ。
※こんなかんじ。
後者も同様だ。左に日付を書き、中央には適当な見出しをつけておく。右にはタイトルと著者名。そのあとは心に残った文章を記録する。最後にページ番号。
※写真は「2001年宇宙の旅」の冒頭。ひとりにひとつの惑星。宇宙の広さがわかる。
効能
こうやってカードを貯めていくと、不思議な現象が起こる。カードどうしが交配しあい、新しい考えが浮かぶのだ。ひとつひとつは全く関係のない出来事なのに、寄せ集めてみるとどこか共通項が見つかる。『思考の整理学』ではセレンディピティとか発酵という言葉が使われている。どちらも副次的な効果という意味あいだった気がする。
楽しい。こうなってくると、めちゃくちゃ楽しい。本棚で沈黙を守っていた本たちが京大式カードへ書き写されると、わんやわんやと騒がしくなる。そこから生み出されたそれは誰かが書いた言葉ではなく、もうあなたの言葉なのだ。自由に使おう。
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