万年筆は嘘をつかない。持つ人が悪く扱えば粗末なものになるし、大切にすればいつまでもきれいなインクを流してくれる。
今朝、カスタムヘリテイジ91の書き味が無残なものに変わってしまった。原因は僕にある。昨日の晩、彼のキャップをしめるのをうっかり忘れたまま寝てしまったのだ。万年筆はキャップを開けたまま放置すると、インクが固まり、すらすらと書けなくなってしまう。僕は一階の洗面台へ降りて万年筆を洗った。流れてくるブルーブラックはきれいだった。
コンバータにインクを補充すると、万年筆はいつもより細く淡いインクを垂れ流した。乱暴な扱いにへそを曲げてしまったようだ。すまないことをした。
実直に生きていきたい。常に自身を清潔に保ち、嘘を吐かずにほがらかに。エンジニアになるために、僕は仁の道を歩む。
諸君に第一に気をつけてほしいのは、決して自分で自分を欺かぬということです。
(中略)
自分さえだまさなければ、他の科学者をだまさずにいることは割にやさしいことです。
『ご冗談でしょう、ファインマンさん(下)』を読んだ。第二次世界大戦が終わり、大学教授となったファインマンだったが、彼の自由奔放な生活ぶりは変わらない。マヤ文明の暗号を解読してみたり、ブラジルのサンバカーニバルに出場したり、金を賭けずにカジノで楽しんだり。それでいてしめる所はしめる。僕の憧れの人だ。
先の引用は、彼がカリフォルニア大学卒業式の式辞で述べたことばだ。彼は積荷信仰を引き合いに出し、物事の本質を見失わないことが大切だと言った。積荷信仰とは南洋の島民たちの信仰のひとつで、彼らは木造の滑走路とアンテナを設置し、積荷を積んだ飛行機が来るのを待つ。来るはずのない飛行機を。
本質とはなにか。それは自分自身を欺かなない誠実さ、または実直さである。ただしこれは科学者として行動する場合に限る。
「女房やガールフレンドをだましてはいかんなどと、そんなことを言っているのではありません」
そうやって、補足を加えるのはファインマンらしい。
僕はよく嘘をついてしまうが、エンジニアとして行動するときは実直でありたいと願う。実験データを都合の良いように改ざんしたり、悪い結果を隠すようなマネはしたくない。
万年筆に対しても真摯に向き合いたい。
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
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