こんなにわかりやすい世界史があっていいのか
若い読者のための世界史(下) - 原始から現代まで (中公文庫)
下巻も一気に読んでしまった。語りかける口調で世界史の流れを説明しているので、時代時代のとぎれがなく、じつにシームレスに世界が動いているのがわかる。下巻は1200年あたりから第一次世界大戦まで。800年の歴史が200ページにぎゅっと凝縮されている。世界史を諦めた人、みんなに勧めたい良書。
価値観は歴史がつくるもの
古代、中世あたりはなにかにつけて神が出てくる。神のために戦い、祈り、働く。しかしそれが1400年頃になってくると違う価値観が生まれてくる。自分、自立、個人。だれかに頼るよりも自分でなんとかやってみようという考え方だ。
身分が高いか貧しいか、キリスト教徒か異教徒か、ツンフトの掟を守るか否か、それは大して重要ではなかった。大切なのは、自立心、能力、理解力、知識、活力であった。家柄、職業、宗教、国籍が問題なのではない。問題なのは、「おまえがいかなる人間かいなか」ということであった。
価値観はまわりの環境により変わる。頭では理解しているつもりだが、生まれながらにして今の考え方を持っているものだと勘違いしがちだ。人間はながい時間をかけて考え方を変えた。これは他の動物にはない特殊な力だと思う。
啓蒙主義
悲惨な宗教戦争により、人々は本当に大切なことはなんだろうと考え始めた。1700年以降のことだ。そのうちに「寛容」「理性」「人権」を柱とする啓蒙主義という考え方が生まれた。異なる価値観を認め合うこと、周りの事柄をしっかりと自分の頭で考えること、すべての人間はみずから生き方を選択できる権利をもつこと。「当たり前じゃないか」と言われるかもしれないが、今日当たり前と言われている考え方はこうやって時間をかけて生まれたものだ。
発明の歴史
自分がなにができるか、という風に価値観が変わっていくと、急速に文明が発達した。レオナルド・ダ・ヴィンチが活躍したのもこのころで、彼は人間の肉体や筋肉、骨を細かく観察しその構造を知ろうとした。彼はとにかくスケッチした。書いて描いてかきつくした。
こちらの記事にスケッチがまとめられている。
レオナルド・ダ・ヴィンチの素描 画像集 - NAVER まとめ
この世の全ての現象は計算することができる。そんな信念を持って真実を追求した姿勢は素晴らしい。彼の影響はいまの世界のいたるところで見られる。
そしてまた、革命によって蒸気機関車、電信機、機械織機がどんどん発明された。今まで構築されてきた理論が一気に実装されたのだ。このスピード感は現代の今でも増すばかりだ。
学んだこと
価値観と発明、開発は密接に関わっている。最近は安価な3Dプリンターが登場し、「何でもじぶんでつくろう」という人が増えてきた気がする。あと二十年もすればだれでもロボットが作れる時代がくるだろう。価値観は発明を生み、発明は価値観を呼ぶ。こうして人類はもっと進化していくのだろう。
ナポレオン、世界大戦など触れていないこともあるがそれはまた別の機会に。ただ、筆者がオーストリア出身の人なので東アジアの歴史についての記述がほとんどないのが残念だ。三国志や日本史は自分で勉強することにしよう。
しかし上下巻合わせて1400円で世界史を勉強できるのは費用対効果が非常に高い。ステキな本だった。
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