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マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

【書評】ロマンスの神様はゼウスより強い/ホメーロスの英雄叙事詩

すごいよ!ホメーロスさん!

 ホメーロスとは西洋文学の初期作品である「イーリアス」と「オデュッセイア」の作者と思われる吟遊詩人である。しかしその存在は名ばかりで、彼が本当に実在していたのか、上記の二作品が彼のみの手によって生み出されたのかは謎である。イーリアス、オデュッセイアとはトロイアー戦争を中心とした長編叙事詩である。「なんのこっちゃ」と思う人も、トロイの木馬は知っているだろう。お宝だと思って城内に招き入れたそれには、戦士がぎっしり入っていた、というあれだ。トロイの木馬はこのトロイアー戦争に用いられた兵器だ。

 物語にはゼウスやアポローンなどのギリシア神話でおなじみの神様が数多く登場する。人間どうしだけではなく、神々の争いも加わるため、戦況は混乱を極める。エキサイティングな構成によって、古代ヨーロッパ人に多大な影響を与えた。寺子屋で暗唱させたり、町で詩人が音楽にあわせてうたう。平家物語と古事記を足して二で割ったものに近いかもしれない。

 さて、この本ではホメーロスの作品を紹介するとともに、そこから歴史のない時代の民族の真相を追求している。彼の物語は神話的な要素が多いが、神話が100%虚構でできていることはまずない。火のないところに煙は立たないように、何かしらのルーツはある。現にシュリーマンはホメーロスの詩を解読し、伝説の都市トロイアの遺跡を発掘した。

 本書ではホメーロスの言葉から方言を分析し、叙事詩が成立した経緯を探っていく。そのあたりの話は本当に面白いのだが、残念だが余白が足りない。

ロマンスの神様は強い

 個人的に面白かったのが、運命の神様に言及している箇所。ホメーロスの描く神は人間より強い。しかし、彼らも運命の女神には勝てない。

われわれは、ここに二つの違った考え方の混合を認めざるを得ない。神々は世界を支配して、人間の運命、世界の運行を左右しているように見えながら、一方では「モイラ」Moiraと呼ばれる運命の女神の力は神々以上に強いのである。


 マイノリティリポートの世界観では、プレコグによって予知された未来が書き換わる。しかし、この叙事詩では運命は書き換え不可能で、その力は絶対だ。それゆえ神たちの振る舞いが人間臭くなり、感情移入がし易くなっている。

 古くからこの歌が愛されていた理由はそんなところにあるのかもしれない。


ホメーロスの英雄叙事詩 (岩波新書)

ホメーロスの英雄叙事詩 (岩波新書)