あらすじ
となり町戦争 (集英社文庫)
ある日とつぜんとなり町との戦争が開始された。しかしその動きはとても静かで、主人公は戦争の証を広報誌の戦死者数でしか計ることができなかった。そんな彼に町役場から一通の任命状が届く。
戦争とはなんだろう。姿の見えないサバイバルに僕らは取り込まれている。そう感じた本だった。
血も流れないし、銃声も響かない
読み始めた時はきっとそのうち主人公も戦争に巻き込まれて激しく戦い勝つか負けるかするのだろうとたかをくくっていた。しかし最初から最後まで彼の身には何も起こらず物語は終わりを迎える。血も流れないし銃声も響かない。こんな小説に戦争というタイトルをつけることは間違っているのではないか。いや決して間違ってはいない。
「戦争というものを、あなたの持つイメージだけで限定してしまうのは非常に危険なことです。戦争というものは、様々な形で私たちの生活の中に入り込んできます。あなたは確実に今、戦争に手を貸し、戦争に参加しているのです。どうぞその自覚をなくさないようにお願いいたします」
例え目に見えなくてもそこに生死が関わる限り戦争は行われている。今日の飯を食えるのは動物や植物たちから生を勝ち取った結果であるし、商品を買わないことで生産者を飢え死にさせることもある。戦争を爆弾や銃撃戦またはキノコ雲なんて決めつけてはいけないのだ。
物語前半では戦争という言葉に重みを感じた主人公が淡々と「戦争事業」を進める住民や役場の職員に疑問を持つ。あなたたちは自分の行為が他者を殺していると自覚しているのかと。覚悟があるのかと。しかし彼らは動じない。それは戦争に対してリアリティを感じていないわけではなく、その事業が利益獲得のために必要だと信じているからだ。
戦争が殺したもの
通り魔殺人や強盗殺人など少数の人間が少数の人間を殺すと世間では大きく報道される。また海外で飛行機事故やテロがあると邦人の被害の有無が必ず付け加えられる。しかし僕らは年間三万人の日本の自殺者の名前を知らないし、交通事故の死者数を考えることはあまりない。戦争が殺すものはあまりに巨大で両手を大きく伸ばしても測るは出来ない。測れないのだから見なければ良い。そうやって世間は戦争が殺した者たちについて蓋をする。
悲しくは思わないが切なくなる。二つの感情の違いについて僕は理解する日が来るのか。
- 作者: 三崎亜記
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/12/15
- メディア: 文庫
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