凄腕野郎
経済学強化月間というわけで今回はマネーボールでおなじみのマイケルルイス著のこの本を紹介しよう。一九八五年、著者はひょんなつてから超大手金融機関であるソロモン・ブラザーズに入社する。胸に期待を抱き研修を受ける彼だったがそこは全てがメチャクチャのジャングルだった。彼は三年でソロモンを退職するがこのノンフィクション作品は八十年代アメリカの金融界を知る上でとても楽しい教科書になっている。
債券と株の違いを理解できたのがとてもためになった。
債券を売りまくる人々
ソロモン・ブラザーズは債券取引の帝王と呼ばれているようだが、僕はこの本を読むまで債券とは何なのか知らなかった。そもそも株と債券はなにが違うのだろう。調べてみるとどちらも資金を得る手段であるが株は投資で債券は借用書ということが分かった。株は出資した企業の活動がうまく行けばお金が増えるし悪ければお金が減る。しかし債券を買うのはお金を貸したことになるので必ずお金は返ってくる。利子もちょっとついて。(デフォルトがなければ)
また本文に出てくるモーゲージ債というのは現代のサブプライムにあたるものだ。個人が住宅を買うときに銀行からお金を借りると借用書を得た銀行は他の金融機関にその借用書を売る。その金融機関は借用書を証券化ということをやって多くの投資家に売りつける。借金がいつのまにか商売の道具になっているのは人間の賢さというかあくどさがにじみ出る現象だと思った。
モノマネの才能
著者は大学では美術史を専攻しておりソロモンに入社するまで債券の知識は全くなかった。しかしながら退職する三年間のうちにでかい取引をする奴の称号、凄腕野郎を得た。成功の秘訣は手本とする人間をまねることらしい。
カネについて気のきいた能書きを並び立てるために、ぼくは自分の知る最も優秀なセールスマンふたりをお手本にした。ダッシュ・リブロックと、ニューヨークの四十一階にいて、いつも電話で相談に乗ってくれるアレキサンダーだ。
ダッシュから仕事のスタイル(電話の掛け方)を学びアレキサンダーからはカネに対する考え方を学ぶ。文中でアレキサンダーの喋り方を復唱したとあるが英語学習のようでユニークだった。
著者には金融に関する知識はなかったが人を引きつける魅力はあったのかもしれない。そのような魅力は自分から相手にしっかり対峙しないと出てこないはずだ。彼の人間観察の結果はライアーズ・ポーカーの随所に見られる。
さらっと天才じみたことをするひと
何の苦労もみせずにすごいことを成し遂げる人に憧れる。苦労がないわけではない。それを他人に感じさせないのがすごいということだ。俺ぜんぜん寝てないわーとか昨日徹夜したわーとか平気で言う人はどこか自分対して防波堤を築いている感があって好きになれない。ソロモンに入社して著者は辛いことや悲しいことをたくさん経験したに違いない。知識や経験もなく金融業というストレスフルな職場に三年間もいたのだ。しかし彼の著書にはそんな空気はみじんも感じない。
淡々と笑わせる文体は非常に魅力的なものだった。ほんと面白いよこれ。
おわりに
雰囲気的にはウルフ・オブ・ウォールストリートのようなものをイメージしてもらえれば幸いです。
こちらからは以上です。