マトリョーシカ的日常

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【書評】この旅はもうおじいちゃんなんだよ/深夜特急<5>トルコ・ギリシア・地中海

アジアからヨーロッパへ

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深夜特急〈5〉トルコ・ギリシャ・地中海 (新潮文庫)

 トルコ、ギリシア、そして地中海へと旅は移る。依然として人との出会いはあるし、そこでのおいしい食事や見事な景色も望める。しかしなんだろう、著者は少しセンチメンタルな気分に浸る。目的地として来たロンドンが次第に見えてくる中で、彼は旅の終わりを見つけられない自分に気付く。

 著者の旅に読者である僕も慣れてしまい、何を書けばいいか迷ってしまう。面白いのは確かだし読み応えもある。しかし具体的な何かはこめかみの裏側あたりに隠れてしまった。見つからない。

 好きに書くことにしよう。

寒さと旅

 五巻は三部構成だ。トルコ、ギリシア、地中海。トルコでは親日のおっちゃんたちと楽しく語り合い、ちょっとしかお使いをする。ギリシアで今までのアジアとは違う何かを感じ取り、地中海では船の上から手紙を書く。

 いくつか印象に残ったところを書き抜こう。

 カブールですれ違った日本人が、これからヨーロッパに向かうという私に、しみじみとした口調で言ったものだった。ヨーロッパの冬は寒い。しかし、その寒さは、雨が降ったり、雪が降ったからという寒さではなく、宿に帰っても誰もいないという寒さなんだ、と。しかし、ヨーロッパに辿り着く前に、私はその寒さに摑まってしまったようだった。

 一巻から三巻はアジア珍道中というノリで出会った人やモノ、見た景色がアクティブに描かれていた。しかし四巻から少しずつ大人しくなってくる。これは筆者のホームシックと考えることもできるが、旅人しか感じることのできないノスタルジーな想いがあるのだろう。

 僕は出不精で休日もどこか遠くに行きたいという欲求がない。家でごろごろしていたいタイプの人間だ。しかし何年か前に自転車で知らない土地をぷらぷらしたことがある。季節は秋の入り口あたりで空気が心地よかった。空は青く、雲はしわくちゃしていてどこかで野焼きの匂いがした。あのとき頭によぎった不確かなもやを100倍凝縮すれば、僕も寒さに摑まってしまうかもしれない。

人生と旅

 旅がもし本当に人生に似ているものなら、旅には旅の生涯というものがあるのかもしれない。

 旅の生涯と聞くと、修学旅行を思い出す。はじめははしゃぎ、まだ見ぬ目的地にわくわくして友達とおしゃべり。おいしい料理や名所に出会い写真をとる。就寝前のまくら投げや恋バナは全国共通のものだろう。
 
 そして全部おわって帰りのバスで僕はちょっと寂しくなったりした。それは明日から始まる退屈な日常への憂いだったり、期待していたイベントが起こらなかったことへの落胆だったり、真っ暗な高速道路を流れるライトのせいだったりする。そのころには旅はもうおじいちゃんで、まっすぐ死へと向かっている。あぁ死にたくないなぁ。


 旅と人生が似ているなら、人生を記録する日記、あるいはブログは旅とどのような関わりがあるのだろう。

おわりに

 あと一巻で深夜特急シリーズも終わり。ちょうど夏休み中に読むことができた。もっと早くこの本と出会っていればよかったと思う。海外へたくさん行っただろうな。

 でも著者の沢木さんも初海外は二十六の時だから、僕もまだ間に合う気がする。いつか行きたい。どこか遠くへ。

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