乗り合いバスの旅、ついに完結
長かった行きあたりばったりの旅もついに終わりを迎える。南ヨーロッパからロンドンへわたる。一年くらい世界を放浪していたのだから、今の時代で考えてもすごいことだと思う。
このシリーズを読んでいる最中、何度「こんな旅をしてみたいな」と思ったことか。道中の出来事はフィクションが含まれているかもしれないが、それでも興奮したし感動したし異国の匂いや質感も感じ取ることが出来た。こんな物語が沢木さんの頭の中に残っているのだとしたらうらやましい限りだ。ちょっと分けて欲しい。
ローマの休日もどき
なんてたってイタリアである。ミラノ、ヴェネチア、トスカーナなど地名を聞くだけでオシャレな気分になれる国だ。多くの芸術作品と数えきれない料理。香川県民が水不足にもかかわらずうどんをゆがくのを止めないのと同様、イタリア人も干ばつになるまでパスタを作り続けるのだろうか。深夜特急シリーズでは料理がどんどん出てくるが、芸術作品をとりあげることはほとんどない。しかし唯一、ミケランジェロのピエタは沢木さんの心を打ち抜いたようだ。
<こんなものがこの世に存在していいのだろうか……>
私は胸の裡で呟いた。この世の中の天才などというものがいるとは信じたくはないが、この「ピエタ」を作った人物だけはその呼称を許さざるをえない、と思った。
また料理と言えば、ポモドーロというトマト味のパスタがおいしそうだった。ナポリタンとはちがい、ケチャップではなくトマトソースのみで味付けを行う。きっとローマのトマトはおいしいのだろうな。
[スパゲッティ・ポモドーロ] 料理レシピ|みんなのきょうの料理
何かを完全に知ることなんてできない
文中に出て来た言葉で気になったものをひとつ。
「ほんとにわかっているのは、わからないということだけかもしれないな」
沢木さんがスペインで日本の若い社員と話したとき、社員はスペイン人のことをスペインの国民性と結びつけて罵った。異国のことがそう簡単にわかるわけないんだけどな、と思った沢木さんは上記のメッセージを思い出す。
バンコクに駐在する日本人が言ったものだった。外国というのはわからないですね、と。何年も住んでいるのだから簡単に分かると思っていたのに。不思議だ。
中途半端に知っているよりは、よく分からないと思っている方が誤ることがないのだと駐在員は言う。これは何にでもあてはまるのではないか。国でもいいし、民族でもいいし、習慣や環境、文化でもいい。完全に理解することはできないのだ、と心に留めておけば、固定観念から離れて自分で一から調べることもできるし、他人に教えを請うこともできる。
僕も見習おう。
旅のおわりと記事のおわり
さて、結局沢木さんの旅はどうなったか。と続きを書きたいところだが、これが傑作で、笑いながら本を閉じてしまった。これは自分で読んで確かめて見てほしい。
珍しい体験はそれだけで本になる。僕もいつか本を出してみたいのだが、それはいつになることか。珍しい体験のほうが先かな。