マトリョーシカ的日常

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【書評/感想】何かに打ち込んだ者だけが手に入れられる強さ/「DIVE!!〈上〉」

僕の原点

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DIVE!!〈上〉 (角川文庫)

 経営不振のダイビングクラブで日夜飛び込みに打ち込む少年たち。ある日かれらのもとに一人の美人コーチが現れた。彼女はこのクラブを守るためにオーナーから存続させることを条件付きで約束させたという。その条件とはオリンピック出場だった。

 知季、要一、飛沫の三人を軸にした青春スポ根小説。森絵都さんの作品は僕が本好きになったきっかけだけどとくにこの本は好きだったなあ。あれから十余年経つが未だに朽ちない魅力を持っている。

少年たちの信念

 この本はもとはハードカバー四巻のシリーズ物で一巻ごとに一人称が変わってくる。一巻は知季で二巻は飛沫。三巻は要一で四巻はみんながごちゃまぜになって出る。一人に偏らずにこれほど人間を書けるというのはすごいなと読みながら思った。登場する少年たちは中高生だが彼らも彼らなりに考えや軸や信念というものを持ちながら飛び込みに打ち込んでいる。例えばトモキは大人によって仕切られた「枠」を飛び越えるため、飛沫は女性コーチとの契約のためという具合だ。

 中学生のころこの小説にハマったのは彼らが持つ信念に感心したから、というよりは同い年にこれほど考えて生きている人がいるのかと驚いたからだと思う。当時の僕は今よりもずっと子供で今以上に何も考えてない人間だったから。コンプレックスや恋愛や親や友達や勉強。そういったたぐいの思春期の悩みなんてなかった。単細胞だ。

 ただ残念なのは彼のことをもっと知りたいと思ったらすぐその章が終わってしまい、また別の主人公に切り替わってしまうことか。彼らは同じ空間と時間を過ごしたはずなのでその時の全員の感情や考えのうつりかわりを是非知りたいところだ。

NTR

 申し訳ないがネタバレをすると主人公が弟に彼女をとられてしまうシーンがある。付き合って一年も経つが飛び込みに打ち込みすぎて彼女のことをかまってやれない主人公、彼女を慰める弟いつしか彼女の想いはうつり……。よくあるパターンだ。雨の中に家に帰るとうっかり弟と彼女にエンカウントしちゃった時はもう、修羅場。悪いはずの弟が正論を呟いていて彼女はごめんごめんばっかりで。なんだろうね、あれ。自分のことじゃないのにとても胸が苦しくなる。

 最後にひとつだけ。やめたほうがいいとわかっていながらも、どうしてもきかずにはいられなかった。
「未羽とキスしたか?」
 弘也は幸せを隠しきれずにぴくりと口角を持ち上げた。
「した」
 こいつを一生許さない、と知季が心に決めたのはこの瞬間だ。

 ちっくしょーめー!

 考えるとこれが僕がNTR属性になったきっかけなのかもしれない。

おわりに

 なにかに打ち込めるというのは素晴らしいことだ。ひたすら中るか中らないかを考えていた高校時代、いかに投げるかを考えていた大学のサークル、PCとルーズリーフの前でうなりつづける今。ただ、「DIVE!!」にあって僕にないものがある。核だ。なんのために、だれのためにこれをやっているのか。無意識のうちでもそれを秘めている人はうまいし伸びるしなにより強い。

 強い人間になりたいものだ。