マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

【書評】泊まるのは、不思議に陽気な娼婦の館/「深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール」

行き当たりばったりの旅に読者も慣れてくる

 
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深夜特急〈2〉マレー半島・シンガポール (新潮文庫)

 
「デリーからロンドンまで乗り合いのバスで行く」そんなテーマをもった沢木さんの旅だったが、未だスタート地点のデリーにはついていない。今回は香港を出発してタイ、マレーシア、そしてシンガポールへと向かう。普通のパックツアーでは体験できない現地民との深い交流やいわくつきの激安の宿、そしておいしい料理。筆者の職歴の変遷や巻末の高倉健さんとの対談が印象的だった。

 内容てんこもりなのにブックオフ文庫で100円!読書は非常にコストパフォーマンスが良い。


陽気なヒモたちと過ごす青春

 
 マレーシアのペナンに着いたはいいが、なんのあてもなく宿を探す筆者。メインストリートからしばらく歩くとかなり安そうな旅館が見つかる。日本語を喋るスタッフに関心を持ち、そこに泊まることにした。一泊五マレーシアドル、日本円で650円。かなり安い。(今は1マレーシアドル=28円くらい。1970年代はかなり円安だったのだろう)
 

 そこは想像通り、一階のバーで一ドル五十セントのビールなどを呑みながら、好みの女と交渉し、話がまとまると二階の女の部屋に上がっていくという、絵に描いたような売春宿だった。

 
 一巻の黄金宮殿を読んだので「あぁなんだ売春宿か」と思ってしまったが、普通のパックツアーではありえないことだし、僕が一人で海外旅行をしてもこんなことろには泊まらないだろう。この旅行記を読んでいると感覚が麻痺してくる。

 筆者にとって、ここでの生活はとても楽しかったようだ。それは宿の女性との交流だけではなく、彼女たちのヒモ男と遊び歩いたことも理由にある。ヒモたちがもつペナンのおすすめスポットを参考に出歩いたり、映画を観たり、日本の話をしたり……。

 もしかしたら、自分は数年遅れで青春とやらの渦中に放り込まれたのかもしれないな、という不思議な思いに捉えられた。

 

筆者の職業の変遷

 
 ペナンを出てシンガポールに着き宿を探していると、自分と似たような風貌をした旅行者二人を見つける筆者。彼らにどこに泊まっているのかと聞くとサウスシーズと答えてくれる。一泊八ドル。三日分の料金を前払いして宿を決めると、彼らと三人で食事をとることにした。彼らが世界一周旅行を数年スパンで計画しているのを聞き、半年で帰ること決めていた筆者は「急ぐ必要はないのだ」と気付く。

 ここから筆者の職業の変遷の話が書かれている。大手銀行を入行当日に退職し、大学のゼミの教授から雑誌社の仕事を紹介され少しずつ文章を書き始める。はじめのころは自由な生活を送っていたが、自分の書いた文章が一冊の本になると次第に仕事が忙しくなる。

どこかで、自分はこれとは違うべつの仕事があり、別の世界があるはずだと考えているようなところがあった。

 そして二十六才で海外へ飛ぶことを決意したのだという。

 どこかで聞いたようなセリフだと考えていたら、この間の朝イチで水谷豊さんも似たようなことを言っていたなぁ。彼は役者を自分の本当の仕事じゃないと感じ、大学受験を期に役者を休業している。今とは違う何者かになりたい、という思考はいつの時代の若者にも共通してあったことなのだろう。

 

沢木耕太郎さんの人脈

 
 シンガポールからカルカッタへ行くことを決意して二巻は幕を閉じる。「あれ、まだずいぶんページが残っているぞ」と思ったらまたしてもに巻末に対談が掲載されていた。お相手は「高倉」となっている。高倉健さんだ。武田鉄矢さんも話に出てくるし、いったい沢木耕太郎の人脈はどのようになっているのだろう。

 対談は「死に場所を見つける」という題で、高倉健さんが出演した映画を中心に話が展開されている。印象的だったのは若いころは退屈だったという話。

沢木:武田さんも、僕も、退屈で退屈でしょうがなかった。けれど、退屈をどうしてそんなに恐れるのかなという話になったんですよ。退屈だということは全然いいことで、それは悪いことじゃないんじゃないだろうかという話をふたりで延々とやっていたことがあるんです。

 大学が夏休みに入り、僕も絶賛暇もてあまし中で、「なにかやらないとやばいな!」って考えていたが、これを読んで別にそれでもいいかと思い始めた。来春から社会人になり、暇できるのもあと半年しかないから、今のうちにたくさんダラダラしよう。
 

おわりに

 
 やっぱりこのシリーズは面白いなぁ。書評では書ききれなかったが、本書では他にもキャラの濃い現地民との交流がたくさん記されている。実際に旅行してみないとこんな経験はできないだろうなぁ。うらやましい。

 ブックオフで5巻まで買っている。最終巻も見つけて一気読みしようかな。