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マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

【書評】絶対勝つ方法を教えてやろうか? 忘れることだよ。/「阿Q正伝」

 『阿Q正伝』を読んだ。一体阿Qとはなんなのだと思っていたが、なんのことはない人の名であった。文字をどうあてるのか判らない音に「クウェイ」QueiのQをあてたのだ。カタカナのようなものだ。それは、隙間なくポジティブな男の話だった。

ある種の勝利者は、敵が虎や鷹であってはじめて勝利の喜びを感じるので、敵が羊や鶏のひなだと逆に勝利のむなしさを感じるようだ。
(中略)
しかし、わが阿Qはそんな弱虫ではない。かれはいつだって意気軒昂である。

 そう。彼はどうしようもないほどポジティブだった。相手に喧嘩を売った反面、ぼろぼろに負けてしまっても、「せがれにやられたようなもんだ。ちかごろ世の中がヘンテコで……」などど体のいい言い訳をして自分を励ます。賭博に負けても、女にけなされても持ち前のうたれづよさを発揮して、次の日には明るい気分に満ちあふれている。これは精神的に強いのではなく、単に忘れっぽいだけなのだろう。

 とにかく、負けたことを忘れれば人は常に勝利するのだ。勝利して残るものは何かというと、金銀財宝や名声ではなく、自尊心それのみだ。「俺は強い」という気持ちだけが確かに発現し、あとは塵になる。外的な報酬よりも内的な報酬のほうがいくらでも自分を強くできる。満足できる。それゆえ忘却は最強なのだ。

 阿Qの最期は悲しい結末を迎えたが、彼の生涯を振り返ってそろばんをはじけば、プラス収支になるはずだ。何とも比べず、何にも頼らず、ただ己の道を歩む彼は強い。必ず勝つし、絶対負けない。そんな風に生きていきたい。

 

阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)

阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)