美術史のわかりやすい解説書。
美術史とは作品と作者の組み合わせをただ暗記するものではなく、なぜその作品がその地域で描かれたのかを思考する学問である。識字率の低かった昔では絵は何かを誰かに伝えるための大切な手段であったので、絵を理解することはその時代の人々の暮らしぶりや考え方を知ることにもつながるのだ。
本書はそんな素晴らしい美術史を分かりやすく解説してくれる。絵に描かれているモチーフや記号から絵を読む方法を示しその後で具体例を挙げている。また後半には古代ギリシャから現代までの美術史をカテゴリごとに見開き一ページで説明している。ざっくり美術史を理解したいあなたへおすすめしたい一冊。
それはなにか、なぜ書かれたか
美術史を学ぶ上で重要なのはその絵に何が描かれているのかということと、なぜ描かれたかの二点だという。それぞれ「図像学(イコノグラフィー)」と「図像解釈学(イコノロジー)」と本書では説明している。
「何か描かれているかなんて見ればわかるじゃん」と思ったそこのあなた。全然分からないのだ。千年後の人類にどらえもんを見せても何を意味しているのかが分からないのと同じことだ。描かれている物体とある意味が結びついているという約束事をコードと言うが、このコードを発掘する作業を図像学という。
絵画がただの趣味や自己表現の手段となったのは本当に最近のことだ。そのため昔の絵には必ず描かれた理由がある。絵に対して需要があったということだ。図像解釈学は歴史上の様々なデータからその理由を探る学問である。本書では高利貸しとトビアスの冒険の絵のつながりの話が面白かった。
高利貸しとトビアス
VERROCCHIO Andrea del|トビアスと天使 - 美術 | wps+(ワールド・フォト・サービス)
ここに一枚の絵がある。トビアスと天使というタイトルで一人の男の子が天使に導かれてどこかへ向かっているところが描かれている。これは聖書の外典のひとつであるトビト書に入っているトビアスの冒険を描いたものだ。父のトビトにおつかいを頼まれた息子トビアスが天使ラファエルの加護のもと無事におつかいを終えるという物語。かなりの長旅らしい。
この絵はルネサンス時代のトスカーナ地方で多く描かれたらしい。この理由はなんだろうか。
長くなりそうなので省略して書くが、
- お金が欲しい
- 高利貸しをしよう
- でも聖書では自国の人間への高利貸しは禁じられている……
- 外貨の為替を利用して利子をもらおう
- 他国へ証文や現金を運ぶ必要がある
- 他人には頼れないから身内に頼もう
- 神様、息子を長旅の不幸から守ってください!
- 絵を買おう。
当時のトスカーナ地方は貿易でお金の流動が激しく銀行業の必要性が高まっていたらしい。
まったく、人間というのはほんとうに都合が良いやつである。
おわりに
後半の美術史のページが体系的に説明されていて分かりやすかった。また美術と聖書の結びつきは本当に強いのだなと思った。聖書の勉強も少しずつやっていきたい。
美術の面から歴史を探るのも面白いね。