心地よい小説
研究者を辞め父親の会社を継いだ佃航平は持ち前の技術力を活かし、七年間で売り上げを大きく伸ばしてきた。あるとき他社から筋違いの特許侵害を訴えられ、佃の会社は危機を迎える。訴訟費用や風評被害によって資金は底を着くなか、大手企業の帝国重工から佃製作所の特許技術を買いたいという申し入れがあった。しかし佃にとってその技術は手放したくないものだった。
半沢直樹の原作者でおなじみの池井戸潤の代表作。直木賞受賞。技術畑の社長の熱い想いに胸を打たれた。つくりたい!って意志がストレートに現されている。
法に対する武装をせよ
物語前半で佃製作所はナカシマ工業に訴えられる。ナカシマ工業は「マネシマ工業」と呼ばれており他社の技術をパクっては特許の穴をつき、専門の法律家を使って相手から賠償金を巻き上げるたちのわるい手法で有名な企業である。近年は日本の企業も技術流出が激しく、記憶に新しいところでは製鉄会社のポスコが新日鉄住金の技術を盗んだことが挙げられる。
韓国に売った日本人「実行犯」の告白「技術流出-新日鉄の場合」 | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]
しかしいくら盗むのが悪いと言いようが裁判に負けたらただの敗者である。そうならないために理系の人も法律にもっと強くならないといけないと思った。以前大学の講義で先生が「技術職であるみなさんも法務にお金をかける必要を理解しておくほうがいい」と言っていた。まったくその通りだ。いくらモノを作って売っても裁判に負ければ何億ものお金を支払わなければいけないのだ。
幸い佃製作所は特許関係に強い弁護士に依頼して逆に和解金を得ることが出来た。よかった。
モノづくりに必要なのはな、熱い想いなんだよ!
佃製作所は従業員二百人程度、資本金三千万円の中小企業である。しかし社長である佃航平のモノづくりにこだわる熱い想いが会社の成績を伸ばしてきた。技術力の向上を優先し、コストや金銭面は顧みない。そんな姿勢に周囲は反発しながらも次第に彼とともに歩みをすすめる。
「穴を開ける、削る、研磨する−−技術がいくら進歩してもそれがモノづくりの基本だと思う」
佃はそう言っているが、僕はモノづくりにはそれ以前に修造ばりのパッションが必要だと思う。一からモノをつくるというのは大変な作業なので強烈な動機付けがないといけない。それはお金でもなく評価でもなく自分の内側に秘めているものに託すほうがいい。「もっと熱くなれよ!」という具合に。頭に浮かんでいるものを現実の世界に生み出したときの快感と言ったらそれはもう大変なもの。佃航平はきっとその味をしめちているに違いない。
一気に読んでしまった
正直今日はバイトがあったため読書もして書評記事も書けるのかと不安だった。しかし前から文庫になったら買おうと思っていた下町ロケットによってそれは杞憂に終わった。面白い。めちゃくちゃ面白い。夢を諦めきらない子供な大人が現実的な社員や娘や大企業と闘いながら自分の意志を貫き通す。おっちゃん向けの小説だけど半沢直樹が好きな人はこれを読んでも楽しめるはずだ。金融庁調査みたいなシーンもあるよ。
初版が昨日だった。ほんとにできたてほやほやだったな。
さて、明日も流れてくるトレイに延々とふたをする作業をやるお……。