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マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

ノーチラス号で学ぶ!電池のいろは/「海底二万里」

 一八六六年、アロナックス教授はたび重なる海難事故の真相を探るうちに、ネモ船長率いる潜水艦「ノーチラス号」と対峙する。最新技術が搭載された潜水艦に乗り、世界中の深海を旅する冒険が始まる。ジュール・ヴェルヌの代表作のひとつ。

 作中でヴェルヌはサカナくん顔負けのお魚の解説を始める。深海を泳いでいる彼らの名前をひとつひとつ挙げていくのだが、私は内陸生まれなので海水魚にはまったく興味がない。私は別の箇所が気になった。潜水艦の動力だ。

「これは強力で、従順で、迅速で使いやすい原動力なのです。すべてのことに利用され、この船を支配しています。照明や暖房その他、この船の器械の生命です。その原動力とは、電気です」

 な、なんだってー。


 著者が生きた十九世紀後半はちょうど第二次産業革命の時代にあてはまる。鉄道や蒸気船の発達もあったが、主な変化は動力が蒸気機関から電力へシフトしたことだろう。トマス・エジソンやニコラ・ステラなどの発明家の登場により、電力送電のシステムが開発され、良い感じに世界がまわりだした。しかし、海底二万里が出版されたときは、そういったシステムが実用化される少し前。電池の話が多い。

 そもそも電池とはなにか。電池は電子の移動によってエネルギーを発生させる装置である。これは物質の酸化還元反応によって起きる。二つの異なる金属を溶液に漬け、それぞれを接続するとイオンになりやすい(電子を離しやすい)金属からイオンになりにくい金属へ電子が移動する。金属や溶液の種類を変えて、様々な電池が発明された。

 例えばボルタ電池は亜鉛と銅を硫酸の溶液に漬けて使用する。グローブ電池は電極に亜鉛と白金を使用して、それぞれを硫酸と硝酸溶液に漬ける。しかし白金は高価であるから、その後に炭素を代替としたブンゼン電池が発明された。作中でネモ船長が言及していたあの電池である。彼はブンゼン電池の亜鉛をナトリウムに置き換えたナトリウム電池というものを使用していた。

「ナトリウムを?」
「そうです、教授。水銀と混ぜるとアマルガムとなり、ブンゼン電池では亜鉛の代わりになります。(中略)それにナトリウム電池はもっとも強力で、その原動力は亜鉛電池の二倍はあると考える必要があることをつけ加えておきます」

 実際のところ、亜鉛の代わりにナトリウムを用いると起電力が約二倍になる。
http://saitolab.meijo-u.ac.jp/lecture/2015_2/text3_2.pdfの標準電極電位の項より、HNO-ZnとHNO-Naの値を比較する。前者は約1.7Vで、後者は約3.7Vになる。)

 ネモ船長は海水中の塩化ナトリウムからナトリウムを抽出し、電極として使用しているというのだ。抽出するための動力は海底の地熱を用いるという。どの位の効率的なのかは分からないが当時の考えうる最新技術を詰め込んでいて、読んでいて面白い。

 なお、ナトリウムを電極とした電池はナトリウムイオン電池として現在開発が進められている。これは現存のリチウムイオン電池よりも安価に製造できる利点があるのだとか。2020年までには実用化が見込まれている。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/spv/1504/10/news030.html

ヴェルヌの妄想が百五十年の時を経て現実のものとなったのだ!

 物語は波乱万丈、山あり谷あり。スエズ運河の海底トンネルや沈んでしまったアトランティス大陸、サンゴの墓場をぐるりと回り、巨大タコと戦い、南極点に世界で初めて(当時)到達し、氷塊に閉じ込められる。ワクワクする小説だった。小さい頃に読んでおけばよかったなあ。

海底二万里 (創元SF文庫)

海底二万里 (創元SF文庫)