秋の夜長は読書とブログ
「読書は、他人にものを考えてもらうことである」
現代ではよしとされている多読に対して批判的な意見を述べた本書は、筆者の死から百年以上経った今でも増版が続けられている良書である。ただひたすら本を読んで知識を得るのはよろしくない。自分の頭で考えて考えて考え抜いて読書は効能を発揮する。
明快で隙のない語り口はどこかリーガルハイのコミカドを思い出す。
秋の夜長にふと読書のあり方について立ち返ってみるのもいいかもしれない。
しなやかな精神を得るために
さて、岩波文庫の「読書について」は三篇で構成されている。「思索」「著作と文体」そして「読書について」だ。二番目の話はドイツ語の変化に対する筆者の憂いや怒りが記されているものなので今回の記事では言及はしない。しかしはじめの話は後の読書についてに繋がるパーツも持っているので紹介したいと思う。
筆者は思索の重要性を説いている。思索とは考えること。つまり考えることは重要ということ。「なんだ当たり前じゃん」その通り。当たり前だ。しかしあなたは最近何かを思索しただろうか。本や新聞、ネット記事を読むのはただ知識を得ているだけの状態だ。知識を鵜呑みにして学習した気になってはいないだろうか。
脳内に情報が溢れていくと精神は外的な力を受け続ける。様々な考え方を脳が処理する以上の速さで押し付けられるのだ。
多読は精神から弾力性をことごとく奪い去る。重圧を加え続けると発条(ばね)は弾力を失う。つまり自分の思想というものを所有したくなければ、そのもっとも安全確実な道は暇を見つけしだい、ただちに本を手にすることである。
全国の読書家、書評家、活字中毒の皆さん。この一文にはどきりとするに違いない。ひたすら読書をしてきた生活を否定されたも同然なのだから。僕もした。どきりとした。
新刊は読んではいけない!は本当か
さて、「読書について」に移ろう。本のタイトルになっているにも関わらずボリュームは二十頁ととても少ない。しかし内容は重厚でこれからの読書生活にも影響を与えるだろう。
筆者は新刊を読んではいけないと言う。うわさのベストセラーとか増版を重ねた話題の本とか、とにかく皆が読んでいる本は読んではいけないとしている。それは良書を読む時間がなくなるから、としていて読むのなら昔の偉大な作品を読もうと唱っている。ギリシア、ローマの古典がいいよ!と。
僕はここだけは著者に賛成できない。ブロガー視点から考えると、ここの文章はブクマを得るためにわざと批判しやすいポイントを作っているのかと思ってしまうが、そうではないのだと信じたい。現代の本でも面白い本、楽しい本がたくさんある。確かに読んでも身にならないかもしれない、教養がつかないかもしれない。しかしそれだけを本選びの支点として使いたくない。良書、悪書の判別は人それぞれであり、一人のひとが決めて言いわけがないのだ。
名文で終わり
最後に文中から気に入ったところを抜き出して終わりにする。
食物は食べることによってではなく、消化によって我々を養うのである。それとは逆に、絶えず読むだけで、読んだことを後でさらに考えてみなければ、精神の中に根をおろすこともなく、多くは失われてしまう。しかし一般に精神的食物も、普通の食物と変わりはなく、摂取した五十分の一も栄養となればせいぜいで、残りは蒸発作用、呼吸作用、その他によって消えうせる。
読書を食事に例えているのが素晴らしい。なるほどと思ってしまう。そして本の内容を全部吸収する必要はないんだよ、と言われて安心した。読書と思索を重ねてたくさんの良質な栄養を採っていきたい。
おわりに
「読書について」は池上彰さんもお気に入りの本だそうだ。彼の著書「学び続ける力」にショウペンハウエルについて言及があった。なんと人生を変えた一冊だというのだ。大学に入学してたくさんの岩波文庫を読み漁っていた時に、多読は悪だと書かれているのを読み衝撃を受けたのだとか。
ショウペンハウエルは読書そのものを否定しているわけではない。本を読み、そのあと考えることが重要だと説いているのだ。補足までに。
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読みやすくて好き。
この本の書評エントリ。
リベラルになれるアーツ!photoby - Dave Morrow -学び続ける力 (講談社現代新書)読みました。池上彰さんの本はどこの書店に行っても平積みされ...
- 作者: ショウペンハウエル,Arthur Schopenhauer,斎藤忍随
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