マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

色付きバーコードと普遍の数式

 時計の針を少し戻そう。スペクトルの話がしたい。

 水素が発するスペクトルが不連続の値をとることは以前から知られていた。その規則性を探ろうとしたリュードベリは、スペクトルの波長ではなくその逆数である波数(単に長さ当りに波がいくつあるか)に着目した。波長によって並べると不規則な並びになるが、これを波数によって並べ直すとなぜか等間隔に置かれるようになる。もっとも、この規則性はハートレイによって発見されていたが、リュードベリはその手法をさらに掘り下げた。

 スペクトルがどんなものなのか分からない人がいるかもしれない。今回の場合は波長を横軸にとり、発生している波長を塗りつぶしたような系列である。色付きのバーコードだ。
http://members3.jcom.home.ne.jp/toshito/photo/image/H.jpg
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 スペクトルの中にははっきり見えている線、わりと見える線、ぼやけている線、ほとんど見えない線という風に見え具合に差がある。これらをグループ分けし法則を調べることにした。リュードベリはそれぞれの系列の波数を数えると、どうやらだんだんとおなじ具合に減っていることが分かった。そこでどの系列にも共通するひとつの関数を置き、そこに系列ごとの修正項を置くことにした。試行錯誤の結果、関数の形として、ある定数を系列の番号(はっきり見えている線を1として、1,2,3...となる)と修正項の和の二乗で割ったものが適切であることを確認した。

 そんな折に、リュードベリは水素スペクトルに関するバルマーの公式を知った。バルマーの公式はあるひとつの系列に関する波長の規則性を示すものだった。リュードベリはバルマーの公式の波数に書き換えて(全体の分母分子を逆転して)自身の推測していた数式と照らし合わせた。だいたい合ってた。

バルマー系列 - Wikipedia
 
 これによって、彼が考えていたある定数(リュードベリ定数)と修正項についてかなり正確に決定することが出来た。そして彼自身の数式の適用範囲を他の系列まで広げることを考えた。今までの項の形を二つにし、それぞれを差が波数に等しいとしたのだ。これによって、彼の数式は全ての系列に適用可能になった。

 彼は公式(6)における結合則の特殊な形式が厳密には観測と一致しえないことをよく自覚していましたが、他方で彼は、この公式が基本的な自然法則に要求される普遍性の条件を本質的に満たしていることを強調しています。

 しかし自分の主要な狙いは、個別の系列のそれぞれにたいする旨い内挿公式を開発することにはなく、むしろ計算のさいに最小の数の特定の定数をもちいることで普遍的な関係を追求することにあると指摘しています。

 おそらくだが、数式と観測値が一致しないのは単なる測定誤差ではない。もっと根本的な何かが関わっている。彼はそれを考えた上で、その場しのぎの数式ではなく普遍性のある数式を追求した。

 リュードベリが発見したスペクトルの規則性は、後にボーアによって考案された原子モデルを後押しすることになる。次回はそのボーアについて書く。

参考文献:

ニールス・ボーア論文集〈2〉量子力学の誕生 (岩波文庫)

ニールス・ボーア論文集〈2〉量子力学の誕生 (岩波文庫)