マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

苦味を所有したがる男の名前はエマニュエル/「聖なる侵入 新訳」

 地球外の惑星で、ライビスは処女のまま子を妊娠する。その子は神「ヤア」であり、地球から追いやられた神は女性の体を使って故郷へ侵入しようとしていた。しかし、突入時の事故によりライビスは死亡。胎児のみが生き残った。胎児は神の記憶を失い、エマニュエルという名で成長する。ある日彼はひとりの女の子ジーナと出会う。

 底が見えない本だった。一度目では理解がすすまず、二度目でやっと時系列を整理できた。どうせひとつの記事では全てを紹介するのはできないだろうから、今回は印象に残った部分を書き落とすだけで終わりにしたい。それというのも、僕自身がまだこの本のエッセンスを吸収し切れておらず、自分の言葉で語るのが難しいからだが。

 これはエマニュエルくんの戦いの記録である。はじめはジーナと世界を救う術をめぐって争い、次に最強の悪であるベリアルに立ち向かう。ジーナはもう一人の神のような存在でもあり、エマニュエルくん自身でもあるから、彼女との戦いは単なる内輪もめだ。しかし、ベリアルは本当の悪であり「ヤア」を地球から追い出した張本人である。

 しかし、本書から戦いの爪痕を探すのは困難だ。前作の『ヴァリス』よりは小説らしい小説にはなっているが、それでも時系列はバラバラでときおり世界線が変動するので、話の流れがつかみにくくなっている。最強の悪と思われていたベリアルとの戦いもあっさり終わってしまい、あれあれどうしたこうしたと思っているうちに話は終了する。

灰色の真実のほうが夢よりもいい。灰色の真実だって真なんだ。それはあらゆる最終的な真実で、いかに至福に満ちているものでも、ウソよりは真実のほうがずっといい。ぼくはこの世界を信用しない。優しすぎるからだ。

 エマニュエルくんはジーナが提供する世界をこう否定する。真実は汚れていも真だ。優しくない世界の方がいい、と。結局この考えは論争の末破られてしまうが、僕は心にぐっと来た。彼が持つストイックな精神に同意したから。男はオオカミなのよ、そして痛みを受けたがるのよ、ブラックコーヒーのような苦さがないと生きている実感がわかないのかもしれない。

 いくつか話したいことがある。次回は地球を支配する二つの頭、キリストイスラム協会と、科学遣外使節団について説明する。そしてそのさらに上にいる巨大人工知能「ビックヌードル」について語ろう。