マトリョーシカ的日常

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威厳のないリーダー/ローマ人の物語19

 今年はローマ史を勉強することにした。教科書は塩野七生の『ローマ人の物語』にする。今年のうちに全巻を読破したいが、どうだろうか。途中まで読んでいるので、19巻から始める。
 
 カリグラの暗殺後、クラウディウスは四代目皇帝となった。紀元四十一年のことだった。五十になるまで歴史の叙述しかしていなかった彼が皇帝になったのは、家系によるコンセンサスが大きい。クラウディウスは二代目皇帝ティベリウスの甥であり、また三代目皇帝カリグラの叔父でもあった。ローマ帝政は統治の正当性として家系に重きを置いていた。一般市民も元老院も皇帝が先代の血を継いでいるのが望ましいと考えていた。


 クラウディウスが行った政治は、先代カリグラによって地に落ちた国家に対する信頼の回復である。「国家反逆罪法」を理由にした処罰を廃止し、これによって追放や流刑になっていた人々をローマに呼び戻した。財政再建を進め、大規模や水道工事や港の建設を行った。他にもカリグラがしくじった外交の諸問題(北アフリカ、ユダヤ、ブリタニア)を解決していった。カエサルやアウグストゥスのような派手さはなかったが、歴史家だけに様々なお国事情に精通しており、どれ問題にも丁寧に対応していた。

 彼がこのまま無事にローマを治めていけば、もっと良い未来が期待できたかもしれない。しかし彼には欠点があった。いい人過ぎたのだ。持ち前の寛容さは、裏を返せば威厳のなさともとれる。ワンマン社長も考えものだが、時には独断で動く力強さも必要だ。

クラウディウスの性格には、部下たちに畏敬の念を起こさせるところがなかった。言い換えれば、軽く見られがちであったということである。結果として、元奴隷の秘書官たちは、何をやってもかまわないと思ってしまったのだ。

 秘書官というのは現代の〜〜大臣のようなものだ。巨大化し複雑化したローマ帝国は、もはや一人の皇帝では全ての面倒を見るのは難しい。クラウディウスは文章作成や書類管理を元奴隷(当時の奴隷はスペックが非常に高い)に依頼し、秘書官とした。身分が高くなった秘書官らは公共事業の売り上げを懐へ収めるなどをした。これも皇帝が優しすぎたからかもしれない。

 彼の最大の失敗は悪妻も持ったことだ。皇帝になる前に三度結婚し、二度離婚している。三人目の妻のメッサリーナは欲望の塊のような人間で、姦通罪や国家反逆罪で訴えては、処罰された人の財産をせっせと懐へ入れた。彼女は百人隊長により殺害されるが、その次の妻、アグリッピーナもひどい。彼女は欲望のまま動くというより、確固たる野望を実現させるような人物だった。息子に哲学者のセネカを家庭教師につけるなど、次期皇帝にするべく根回しを行った。この息子があの暴君ネロである。

 クラウディウスは六十三歳でこの世を去った。諸説あるが、アグリッピーナによる毒殺説を筆者は述べている。四代目は真面目で誠実な人物だったが、それだけではリーダーに向かないらしい。


ローマ人の物語〈19〉悪名高き皇帝たち(3) (新潮文庫)

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