マトリョーシカ的日常

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【書評/感想】平和のためにバランスをとりつづけた男/ローマ人の物語〈16〉パクス・ロマーナ(下) 」

はじめに

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ローマ人の物語〈16〉パクス・ロマーナ(下) (新潮文庫)
 何とかして自分の血筋を跡継ぎにと考えるアウグストゥスであったが運命の神様は意地が悪い。一人娘は男遊びしすぎて島流し。孫は病死が二人と島流し一人。そうこう悩んでいるうちに近隣諸国の治安が悪くなっていき、ローマに不穏な空気が流れる。偉大な初代皇帝の生涯が終わる一巻。

後継者問題

 跡継ぎが出てこないのは運が悪いのもあるがアウグストゥスが血筋に拘りすぎている面もある。カエサルは能力主義であり家柄がよくなくても実力のある者を登用していた。それによって中流階級のアグリッパが初代皇帝の右腕となるまで成長できたのだ。アウグストゥスがなぜそこまで血筋に拘ったのかは僕は分からない。そういえばホグワーツ魔法学校の寮の一つスリザリンは純血を良しとし、マグル(普通の人間)と血が混ざることをひどく嫌っていた。スリザリンもアウグストゥスも自分のDNAを持つものを大事にしたいという気持ちが強かったのだろうか。結局後継者は親戚関係であるティベリウスになったがこれもゲルマニアの問題がなければ進展しなかった話だろう。

ゲルマンの森

 ローマの防衛ラインをライン川からエルベ川に押し上げるため、アウグストゥスはゲルマニアを征服することを試みた。作戦は成功し未開の森はなんとかローマのものになった。しかし制圧することと維持することとは違う。ゲルマンたちの攻撃で数万人の軍勢が全滅してしまいローマはやむなくゲルマン侵攻を諦めた。

 ゲルマンの森は深い。そして部外者は追い払われる。ノルウェイの森とは違う。

バランス

 老後も波瀾万丈の人生を歩んだアウグストゥス。彼が遺したものは大きい。確かにカエサルに比べたら悪いところや弱いところがあったかもしれない。しかし足りないところは仲間からの支援で補い、それにありあまるほどの内政力の高さで帝政ローマを確立した。彼こそ歴史に残る偉人だ。

カエサルが考え、その後を継いだアウグストゥスが巧妙に、嘘さえもつきながら確立に努めた帝政とは、効率よく機能する世界国家の実現であったと、私ならば考える。

 
組織が大きくなると感情や直感だけでは対処できない問題が出てくる。ルールやマニュアルを作りシステマチックに運営することで安定した国家ができる。帝政ローマは後の多くの国々の見本となるものだった。


著者である塩野さんは効率化を計る国家の確立と元老院たちの要求の狭間でうまくバランスをとったアウグストゥスを評し、こう述べている。

われわれ人間は、常に選択を迫られる。なぜなら、絶対の善も悪も存在せず、人間のやれるのは、その中間でバランスをとりつづけることしかできないのだから。

 これは様々なことに言える。ブログは極端な論調をしないと受けないが、現実世界はそうではない。本音と建前、理想と現実の間を行き来しながら僕たちは生きる。生きるぞ。

おわりに

 巻末の年表では日本→弥生時代となっている。日本がぼけーっと米作っている間にこんな詳細な歴史が残っているのはすごい。

 そして弥生時代の人と歴史を通して会話できるこの事実が大変嬉しい。