マトリョーシカ的日常

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【書評/感想】少年時代にも苦しみはあった/「飛ぶ教室」

ほっこり小説

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飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

 先日の車輪の下に関連してというわけではないが今回も有名な海外小説を紹介しようと思う。ケストナーの飛ぶ教室だ。ドイツのギムナジウム(日本の中高一貫校のようなもの)に通う五人の少年を軸にして大人たちが忘れてしまった若い頃の悩みや葛藤を描いている。ちなみに飛ぶ教室とは作中で行われる劇のタイトル。

 僕ら全員は確かに少年少女の時代があり(現在進行形の人もいるが)様々な経験をしたはずなのに大人になったらフィルターがかかって良い思い出しか残っていない。

 人生で大切なのは、なにが悲しいかではなく、どれくらい悲しいか、だけなのだ。子供の涙が大人の涙より小さいなんてことは絶対ない。ずっと重いことだってある。

 あぁそうか。町でみかけるあの少年たちも何かしら深い悩みを持っているかもしれない。それは明日の血液検査のことかもしれないし、自転車に乗れないことかもしれない。はたまた宿題がなかなか終わらないことなのかも。それが僕にとっては軽いものだとしても彼らにとっては人生の一大事であり最大の関心ごとなのだ。みんな同じ。同じだけ強くて優しくて、深くて悲しい。

正義さんと禁煙さん

 ギムナジウムの五人の少年たちにはまわりに信頼できる大人がいる。中でも正義さんと禁煙さんにはお世話になっている。正義さんは正義感溢れる教師だ。彼らの前でいつも正しい道を示してくれる。一方禁煙さんは捨てられた禁煙列車に住む浮浪者だ。しかしみんなの話をよく聞いてちゃんと答えてくれる。少年たちは悩み事によって相談する人を使い分けている。真っ当な悩みは正義さんへ、分別が難しい問題は禁煙さんへ。

 僕は周りに相談する大人がいなかったので、彼らの環境をうらやましく思う。いや、もっと見渡せば信頼できる大人はたくさんいたかもしれない。学校帰りに寄り道をして商店街のおっちゃんに気軽に声をかけてみたい。花屋のおばさんに恋愛相談をしてみたい。駄菓子屋のおばちゃんに算数の問題を教えてもらったりしたい。そうすれば何か変わったかな。

子供から大人へ

 この小説は子供向けだ。話は分かりやすく難しい表現もない。しかし大人が読んでも十分心にヒットする小説だ。登場する先生や子供がときおりどきりとする発言をする。簡単だからこそそれらは胸に深くしみ込むのだ。

「どんな迷惑行為も、それをやった者にだけ責任があるのではなく、それを止めなかったものにも責任がある」

 ケストナーは大人に発信したいことを子供向けの表現で書いたのかもしれない。ひきこもりえっちの人も同じスタイルかな。彼女は賢い文章をわざとくだけたものにしている印象を受ける。

おわりに

 車輪の下を読んで海外小説にはまったらぜひこちらも読んでみてほしい。その次は変身とか、異邦人かな。

 こちらからは以上です。