マトリョーシカ的日常

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【書評】あなたを脳ごとをかき混ぜる!西洋哲学の王道/「方法序説」

「わたしは考える、だからわたしは存在する」

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方法序説 (角川ソフィア文庫)


 哲学者であり数学者のデカルトが、実験の協力者をつのるため自身の論文を投稿しそれに付録をつけた。その付録が「理性を正しく導き、もろもろの科学における真理を探求するための方法序説」すなわち「方法序説」である。ヨーロッパ各地を渡りながら自身の考えを書き連ねた本書は六部構成になっている。「読むのが大変だったら一部ずつ読んでね♪」と書いてあるが、「こんな薄っぺらからすぐ読めるよ」と思ってようようとページを開いた。


 ……難しい。

 解説に触れるのは二回目からで大丈夫。分からないところがあってもまずは一気に読み通してほしい。三百年読まれ続けている理由がわかるはず。

自分探しの旅へ出た天才

 第一部は良識、理性、考えることについて書かれているが、自身の学生生活も綴られている。デカルトは学べば学ぶほど自分の無知を知った以外はなんの効果も得られなかったとしている。「たいして勉強しなかったんだろ」とは思わないでほしい。学校で学べることは全て学び、レアな本まで全て読破したと書いている。

 同窓の生徒にくらべて自分が劣っていると見られていないことを知っていた。

 まわりくどい言い方だが、優秀だったと言いたいのだろう。確かに現在でも名が残っているのだから、とんでもなく天才だったのだ。そして彼は学校を卒業すると自分探しの旅へ出た。これは今の大学生が休学をして就活への逃避のために行う旅とは違う。彼は明確な目的を持っていたし、その後結果を出したから。しかし新しいことを知りたい、縛られたくない、捨てたいとかいう若者特有の欲求が文中から垣間見ることができ、親近感を覚えた。デカルトも人間だった。

グラフを考え出した人

 デカルトと聞くと、哲学者を連想するひとも多いが、理系の僕からするとデカルトは数学者のイメージが強い。彼は何をしたかというと代数学と幾何学をひとつにつなげたのだ。小学校で習ったy=ax+bのグラフの根本を考えたのはデカルトその人である。

 方法序説は「屈折光学」「気象学」「幾何学」の三つを一つの論文にまとめあげたものの付録であるので、幾何学に関する記述もある。

 事実わたしは、はばからずに申し上げるが、わたしがさきに選び出したあのわずかばかりの準則を厳密に守ることによって、このふたつの科学(代数学、幾何学)の領域にある全ての問題をまことに容易に解くことができた。

 「あのわずかばかりの準則?」

 次で説明しよう。

ライフハックの最上位「わずかばかりの準則」

 みなさんは何か問題を考えるとき、一定のやり方というか原則を持っているだろうか。デカルトは様々な経験から四つの方法を発見した。全文を引用するのは面倒なので僕が勝手に意訳して載せてみる。

  1. どう考えても明らかであると認めないものは一切信じない
  2. できるだけ問題を分割する
  3. 簡単な問題からはじめる
  4. もれなく抜けなくだぶりなく考える

 この四つだ。森見登美彦さんの「ペンギン・ハイウェイ」にも似たような法則が書かれている。主人公の少年研究者のお父さんが彼に提示した考えるルールだ。あとで読み直してみよう。



追記20131022:方法序説より引用。

 第一は、わたしが明証的に真理であると認めるものでなければ、どんな事柄でもこれを真実として受け容れないこと、換言すれば、注意深く速断と偏見を避けること、そして何ら疑いをさしはさむ余地のないほど明瞭かつ判明にわたしの精神に現れるもの以外はけっして自分の判断に包括させないこと。
 第二は、わたしが検討しようとするもろもろの難問のひとつひとつを、できるだけ、またそれらをよりよく解決するために必要なだけ、多数の小部分に分割すること。
 第三は、もっとも単純でもっとも認識しやすいものから始めて少しずつ、いわば段階を追うてもっとも複雑なものの認識に至り、また自然的には相互に後先のない事物の間に秩序を仮定しながら、わたしの思考を秩序だって導いてゆくこと。
 そして最後に、全般にわたって、自分は何ひとつ落とさなかったと確信するほど完全な列挙と、広範な再検討をすること。(p35)


ペンギンハイウェイから。

 父の三原則について。
父はぼくに問題の解き方を教えるときに、三つの役立つ考え方を教えてくれた。それらをぼくはノートの裏表紙に書いて、いつも見られるようにして、それは算数の問題などを考えるときに役立つ。以下のリスト。
□問題を分けて小さくする。
□問題を見る角度を変える。
□似ている問題を探す。(p77)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)
森見 登美彦
角川書店(角川グループパブリッシング) (2012-11-22)
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おわりに

 第四部は記事を書く前に考え抜くことができなかった。あの文章は何回も時間をかけて読み進める必要がある。また、以前紹介した反哲学入門のデカルトのあたりを読み直してみるのもいいかもしれない。

 難しい本だったが、文字を脳内で変換、抽象化、図形化する作業はとても心地がよかった。久しぶりに頭を使う読書をした気分。

 秋の夜長に西洋哲学。ぜひおすすめしたい。


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