マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

【書評】京都の学生が無駄なことをし続ける青春小説/「四畳半王国見聞録」

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四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

 京都を舞台にしたどうしようもなくくだらない大学生を描いた青春小説。大日本凡人會、四畳半統括委員会、詭弁論部などおかしな集団が出てくる。帯にも書いてあるとおり七つの妄想が詰まった短編集だ。
 

凡人を目指す非凡人の集まり

 一番面白かったのは大日本凡人會か。

「大日本凡人會」とは、凡人を目指す非凡人の集いであるという。

 特殊な能力を持っているが、世間に認められずひた隠しにして生きていく彼らは、卑屈だが憎めない性格をしている。

 「妄想的数学証明によって現実世界に物質を出現させる」ことができる人、マンドリンを駆使して相手の心を覗ける人、落ち込むと空間を凹ませることがてきる人、映像からモザイクをとれる人、とにかく影が薄い人。

 この章は何度も笑ってしまった。数学氏が自分の彼女の存在を数学的に証明しようとしたところは、笑いを通り越してある種の虚しさを感じてしまう。

「ついに証明した! 俺にはやはり恋人がいた! 」

「彼女はどんな人なんだ?」とモザイク先輩が訊ねた。
「関数なら表現できますけど……美人です」

理由だと? 何より明白な理由があるではないか。自分は彼女が自分の恋人であることを二年がかりで数学的に証明したのだ。
(中略)
「私には恋人がいるが、それを証明するにはこの余白は狭すぎる」—そう書いてお茶を濁したいと思いながら、それでも机に齧り付いて、血が滲むような努力を続けてきたという事実こそ、私が彼女を選び、彼女が私を選ぶ理由ではないか。

いかに無駄なことに情熱を傾けられるか


 大学には無駄なことが山ほどある。いや、無駄しかないといっても過言ではない。どうせモラトリアムを満喫するならとことんやろうではないか。この本には何も有益な情報は書いてないし、自分の感情をゆり動かす何かもない。しかしそれでいいのだ。大学生活を楽しみたいなら勉強やサークルに打ち込むだけでなく、将来何の役にも立たないことをやってみよう。



 それが出来るのは今しかないのだから。