こだわりの朝食
ベターな朝食をここ3年ほど探し求めていた。シンプルで飽きなくて栄養豊富。これを満たす条件を血眼になってレシピ集を検索していた。血眼は言いすぎた。ごめん。
そして先日見つかったのが写真のメニューである。トースト、目玉焼き、キャベツ、ミニトマト、コーヒー。そう、喫茶店のモーニングだ。この形を決めたのはコーヒーだ。数年前まで僕はそれほどコーヒーが好きではなかったので、トーストには牛乳を合わせていた。するとどうだろう、学校給食になる。たったひとつのプリンを勝ち取るために死闘を繰りひろげたり、給食着入れをふりまわして死闘を繰りひろげたり、食器片付け権を押し付けるために死闘を繰りひろげた思い出が、よみがえってくる。
要するに牛乳はおこちゃま向けなのだ。僕は背伸びして身長百八十の大人になりたかった。それゆえ朝食にトーストは避けてきたのかもしれない。
このメニューの核は目玉焼きだ。目玉焼きの焼き加減如何でメニュー全体の出来が決まる。僕は卵焼きを作るのは得意だが、目玉焼きは苦手だった。どうしても黄身が焼き切れなかったり、白身が焦げ付いたりする。
「水入れてふたをすればいいんだよ」
寝耳に水、いや目から鱗だった。
フライパンに熱し、サラダ油をちょろちょろとひく。全体にいきわたるようにフライをくるりと前後左右に傾ける。熱くなったら卵を割り入れる。このときの投下距離は低いほどよい。黄身がつぶれずにぷっくり焼けるからだ。投下後すぐに弱火にする。水道水を白身の周りを囲うように入れる。
すぐにふたをする。十秒待つ。火を消す。
余熱でいいかんじに焼こう。
別に特別おいしいわけではない。しかしマーガリンがしみ込んだトーストをコーヒーで流し込むと、こめかみ辺りがでゅるでゅる回転していく。角速度が上がっていくのだ。これは全てカフェインのせいなのだが、いいしれない高揚感とてきとうな満腹感により僕の朝はスイッチオンになる。