スエゾー製造機
J-POPにつくづく縁のない人生だった。小学生の頃、自分にとって手のひらサイズのCDはモンスターを生成するためのものだった。姉からもらった「夜空ノムコウ」には何が入っていたっけ。高校受験が近くづいてきたころ、友達が小さめのゲームボーイのようなものをいじっていた。そのなかに何千曲も収納できるらしい。そう自慢しながら彼はブロック崩しをしていた。
CDを一度も買ったことがない僕にとって、何千単位の音声データはあまりそそられるものではなかった。音楽をファッションの一部と認識することができなかった。かっこいい、かわいいからは遠い存在でありたかった。後の中二病である。
高校に入ってからもそのスタンスは変わらなかった。当時の僕は何に夢中になっていたのだろう。何にお金を使っていたのだろう。今よりも本を読まなかったし、寮生活のためゲームもできなかった。きっと帰り道のメロンパンと三ツ矢サイダーに消えてしまったのだ。そう思う。結果として高校卒業時には70キロを越えていた。170センチ72キロ。BMI 24.91。肥満体型である。
そうしてど田舎高校からかなり離れた地方大学へ入学した。砂漠を走り回るサークル活動のおかげで体重は62キロまで減った。当時の写真がどこかのサイトにアップされており、今でも時々見に行ってしまう。サークルで所有している車内では、先輩お気に入りのCDが流されていた。Dragon Ash、ゆず、いきものがかり、宇多田ヒカル…いろんな人の名前を覚えた。
ついにはじめてCDを買った。アンダーグラフのパラダイムだ。車内にないグループのCDを買おうと思い、近くのブックオフで購入したのだ。
ある。僕はこの曲を聞いたことがある。FMラジオ番組をBGMに過ごしていた寮生活時代、その記憶のさきっぽと四隅にちらちらと存在していた。そっと目を閉じて高校生活を思い出した。なぜ聴覚の刺激が嗅覚につながるのだろう。まっくらな通学路の両脇の田園地帯。土のにおいだ。
そこから先は僕のうそっぱちのサクセスストーリーを作り上げていただけなので書くに値しない。
もっと音楽を聴いていたら今とは違った青春時代を過ごせたのだろうか。そうでもない気がする。僕は僕だし。