僕は僕から離れることはできない
筆記試験の出来は散々なものだった。時間帯が選べるものだったことと、受けた時間が早かったためか受験者はとても少なかった。一般常識と数学と国語。最後に作文があった。割と対策はした方だと思ったが、一般常識はまったくヤマがはずれ、数学は複雑な数式に振り回され、そして覚えたはずの熟語の意味が分からない。作文も最後まで書けたことは書けたのだが……。
ひどい結果だったのだ。つめが甘いなあ。帰りのガラガラの車内で、もやんもやんとした不安や焦りが僕の頭に充満していった。
家に戻り洗濯をして仮眠をとったあと、志望動機をつくる作業に入った。あしたの面接練習のために必要だからだ。いつの間にか就活生になっている。不思議なもので、入りたくない企業でも志望動機を書いているうちに「あれ、意外と面白そうな企業だな」と思うようになる。
終わるとコーヒーを淹れ、読みかけの文庫本を読んだ。サンデル先生の正義の話だ。頭の中に難解な用語や考えが入り込んでくる。処理しきれないので流し読みをして何回か読み直そう。プーさんの例え話のところはなるほどなと笑ってしまった。
読書をしばらくしたら、あのもやんもやんとした感情はどこかへ消えていた。自分にとって本を読むことは安定剤の意味を持っているようだ。終わったことは仕方ない。
過去のことを思っちゃダメだよ!/今を生きなきゃダメなんだよ!/いまここを生きていけば/気持ちがいいぞ!
【松岡修造】壱番桜【千本桜】 ‐ ニコニコ動画:Q
読書は筆者と自分との対話だ。それは頭の中で行われ、誰にも邪魔をされることはない。僕は僕から離れることはできない。悪いことではない。何があっても本は自分の味方であり、よき理解者である。そういう風に内面から自身をしっかり作りあげていけば、芯の強い人になれる。
きっとそうだ。