ちかごろ、という訳ではないが、コンビニの店頭にコップ型の容器に入っているコーヒーをよく目にする。値段は缶コーヒーよりも高いが試しに買って飲んでみると思いの外うまい。風味が落ちずに口の中全体に入り込んでくる。ちょっとオシャレな感じがするのも受けているのかもしれない。
「スターバックスのロゴ」と言われてすぐに思い浮かぶ人はいるのだろうか。白と緑の2色刷りの女神が王冠らしき者をかぶっているあれだ。調べてみるとギリシャ神話のセイレーンを描いたものらしい。コーヒーショップと人魚。どういうつながりがあるのかわ分からないが、金商売というものは神にすがりたくなるものらしい。人魚のおかげかは知らないが、スターバックスは1971年開業以来、世界で最も多くの人に親しまれているコーヒーショップとなっている。
「海と毒薬」という小説には、戦時中の医師の苦悩が描かれている。そこで神についての会話がなされている箇所がある。捕虜を生体解剖するオペについて、参加を了承した二名の医局研究生の会話だ。
「神というものはあるのかなあ」
「神?」
「なんや、まあヘンな話やけど、こう、人間は自分を押しながすものから——運命というんやろうが、どうしても脱れられんやろ。そういうものから自由にしてくれるものを神とよぶならばや」
神っていう存在は自分の運命を決めてしまう勝手な奴だと考えていたが、彼は神を運命から自由にしてくれる存在と言っている。語彙が少ないからなんと書けばいいか分からない。目から鱗と書けばいいのか。
そうだとしたらさっきのスターバックスの神はコーヒーの運命をどう解き放ったのだろう。えいや、とコンビニの店頭に並べたのか。ひとつ210円のそれを。
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