帰り道に見かけたノアザミたちはどれもが空を一直線に見上げていた。まだ夜ではなかった。雨も降っていなかった。梅雨入りしたはずなのに、今年はあまり傘の出番がない。彼には申し訳ないことをしている。私は気分がいい。日々の仕事に追われているが、ストレスはまったくない。自分がしたい仕事であるからというのもあるし、誰かに必要とされているからということもある。「今のような業務があとどのくらいできるのだろう」と考えてはいるが、それは誰も知らない。知らないけど、それでまた今月も生き延びることができる。それで十分じゃないか。コンビニで買った缶コーヒーを駅のホームで飲む。また喜ばしからずや。
続きを読む単位体積あたりの思想/「論語」
Photo by Zoltan Kovacs | Unsplash
晴れてはいたが、水分が多かった。六月のムッとした空気が停車している電車を押しつぶしていた。それは私のホームとは反対にあって、私が乗るべき電車はまだきていなかった。この情景描写は本文とはまったく関係ないが、それを記録しておくべきと私は感じていた。そうしてこうなった。
wishリスト経由でおいもさんから『論語』をいただいた。ありがとうございます。時間が経ってしまったが、少しばかり感想を書こう。論語とは、中国の孔子というおっさんがえらいこと述べてたものを集めたものだ。おっさんはだいたい紀元前五五〇年から四七九年まで生きていた人間で、割と古い人間だ。
論語の中心となるのは仁、君子という要素であり、だれもがそれを夢見ている。仁を持ちたいな、君子となりたいな、それにはこれが必要でこれが不必要だ。彼は君子で彼は君子ではない。そんなことを淡々と述べている。孔子はたくさんの弟子がいて、その中ので出来のいい弟子は作中にも登場する。出来のいい弟子は、「どうやったら偉くなれるんですか!?」「君子になりたいけどどうすればいいんですか!?」と質問してくる。孔子はさらりと答える。いろいろと繰り返している。
子の曰く、与に言うべくしてこれと言わざれば、人を失う。与に言うべからずしてこれと言えば、言を失う。知者は人を失わず、亦た言を失わず。
よく話し合わないと人を失ってしまうし、言い過ぎたら言葉を無駄にしてしまう。この言葉を無駄にするという発想が面白かった。私は言葉は無限のリソースがあって、無からいくらでも生み出るようなイメージを持っていた。そんなことはないのか。確かウィトゲンシュタインは語ることを思想の単位としてやって、「我々はどこまで語り得るか」を実験していた。「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」つまりは言葉は通貨のように有限だったのだ。そうか。
世界を構成する要素のごく一部に鋼材がある。それはアングルやH鋼という種類があって、断面がL字だったりH字だったりする。
彼らの大きさはある程度決まっており、定尺とか標準寸法と呼ばれる。私はその中から必要な大きさのものを探す。自分がつくりたいものと、既存の物体の間を行き来し図面が出来上がる。楽しい作業だ。そうして改めて世界を見渡すとそこかしこに標準寸法の鋼材が使われている。かれらもひとつの単位なのだ。単位。
孔子はこの世界をどのような単位で見ていたのか。仁や君子なのか。わからない。わからないまま明日が来る。
- 作者: 金谷治訳注
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1999/11/16
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くっそくだらないハードウェアをつくるぞ!/メイカーズのエコシステム
モモの小説に出てくる時間泥棒に襲われているような日々だ。時間が驚くほど少ない。いや、時間がすくないというより満足のいく使い方ができていないだけか。以前、私は自身のことを「本を読む、文章をかく、ものをつくる、そういうことでしか経験値を得られない人間」だと書いた。(気がする。)それらができないとそわそわするし、もやもやするし、嫌な気分になる。そう。私は文章を書いていない。
からあげさんからwishリスト経由で『メイカーズのエコシステム』という本をいただいた。ありがとうございます!!メイカーズとは自由にものづくりをする人々の総称。彼らは既存の企業にとらわれることなく、自分たちの好きなようにつくってワクワクしている。非常に愉快な連中だ。本書では中国は深圳のメイカームーブメントの模様を中心して、未来の新しいワクワクを紹介している。
本にはニュータイプのわくわくも存在していたが、実際にハードウェアを製造するのはどんな感じかが詳しく書かれていた。流行りのハードウェアスタートアップだ。キックスターターでお金を集めて深圳の工場群に部品を注文する。そうしてできあがる不完全な製品。再検討。すさまじく遅れる進捗。それでいて購入者はあまり怒らない。こういうのをインディーデザインと言って、同人誌のハードウェア版になるらしい。
楽しそう。残念ながらいまは楽しそうしかかけない。私はこの本を読んで何を実践できるのか。何らかのハードを生み出すことができるか。くっそくだらないハードウェアをばんばん作りたいなぁ。
こんな感じの。
ハードウェアスタートアップは、ヒッチハイクで友達の家のソファーを渡り歩いて成功への路を歩まなければならない。お金以外の価値をベンダーにもたらすために、まずは「いつも笑顔で楽しそうでいること」を強くおススメする。
p195
楽しげにがんばっていきたい。
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
- 作者: 高須正和
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