慌ただしく業務をこなすも、振り返ってみると特に大きなことはやっていない。そんな平日だった。他の課の人々はなるほどほんとうに忙しそうで、あっちこっちへ電話をしたり会議をしたりエクセルパワーポイントワードに翻弄されている。一方私は何をやっていたのか。ボール盤で穴を空けて、タップでネジ穴を立て、曲げ機で板材を曲げた。
タップというのは、ネジ穴をつくるためのドリルだ。普通のドリルはきりもみ状の刃がついているがタップは違う。ちょうどネジのような形状をしている。加工の際にはタップのおしりにホルダーと呼ばれる持ち手をとりつける。全体をみるとT字の格好になる。あらかじめ穴を空けていたところに、ホルダーを持ちぐるぐる回していくと、あら不思議、ネジ穴ができてしまう。そんな道具だ。
世界はモノで散乱しているが、カオスの中に秩序を感じ取ることが出来る。これは異種のモノをつなげる締結の力によるところが大きい。このベーシックな存在として、ネジがある。ネジは日常のいたるところで確認できる。部屋を見渡せば家庭用のリモコンや目覚まし時計の裏にもあるし、外を歩けばガードレールや電信柱、看板のとりつけなどに使われている。ネジは単純で力強い。軸方向と周方向のどちらの外力にも対応できる。それでもネジには限界がある。最近はタップの微細加工がどうとか言われているが、これ以上小さくするにはそろそろテクノロジーの根本を変えなければなるまい。ドラえもんの手のようなあれが良い。締結の未来はどうなるのか。
ジェイムズ・P・ホーガン著「星を継ぐもの」を読んだ。近未来のSF小説だ。匿名の方から誕生日プレゼントとして頂いた。ありがたい。月に降り立った調査隊が人間のような死体を発見する。検視の結果、五万年以上前のものだった。しかし装備していた品物は現代科学のレベルを軽く超えている。彼は何者なのか。どこから来たのか。謎が謎を呼ぶ展開に引き込まれる。
主人公の物理学者のハントは、その謎の宇宙人(チャーリー)の正体を突き止めるよう、国連宇宙軍UNSAに依頼される。彼が開発した三次元走査機が、その求められる所以だ。しかしUNSA本部長のコードウェルは彼に別の才を見出していた。以下、ハントの言葉。
問題は……そうやって集積された情報をどう解釈するかだよ。上のほうの情報の扱いを見ていると、どうも教条的にすぎるというか……いかにも融通がきかないんだね。
(中略)
チャーリーの謎を解決するには、もっともっと広い視野と柔軟な考え方が必要なんだ。
ハントは専門知識に偏らず、公平に情報を受け取る力があった。そしてそれらを自在に組み合わせ新しい側面を発見することができた。更には異分野の科学者たちを引き合わせる能力もあった。いうなれば彼はワクワクの触媒なのだ。
締結方法から見ても、新しい局面には新しいテクノロジーが必要だ。それに不可欠なのはハンスのような大局的な視野と、人間的なバランス感覚、そして楽しさであろう。私もそんな風にしてテクノロジーの潮流に溺れていきたい。
- 作者: ジェイムズ・P・ホーガン,池央耿
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