マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

三分間ビックヌードルと聖なる侵入

 間が空いてしまったが、フィリップ.K.Dick著の『聖なる侵入』についてつらつらと書いていくことにする。

 世界はキリストイスラム協会(CIC)と科学遣外使節団(SL)に支配されていた。前者を率いるフルトン・スタトラー・ハームス枢機卿と後者の最高行政官であるニコラス・ブルコウスキーは自らの勢力を伸ばすために互いに争っていた。ハームスはニコラスが病に倒れたのを知り、専門の医師団を派遣し彼の健康状態を確認した。決して病を治すためではなく、情報収集のためだ。しかし、本当はニコラスは健康そのものだった。ハームスを油断させるために嘘の情報を流していたのだ。ハームス派の医師団はすでに取り込まれており、さらにニコラスは枢機卿のものとへ女スパイを派遣している。

 CICとSLのさらに上に立つ存在が巨大人工知能「ビックヌードル」だ。その処理能力と想像を超える情報量は世界最高であり、ハームスもニコラスもヌードルをあてにしている。特にハームスは哲学の思想を人工知能にインプットさせ、神の存在証明を行おうとしている。しかしヌードルは全ての哲学者の知識を有しているので、反論を立てることも容易なのだが。

 ふざけた名前のこいつがリンダ・フォックスを生み出した。彼女は仮想空間上に生き、人間に歌と踊りを届ける。ヌードルは人間のニーズをくみとり、彼女を随時バージョンアップさせていく。いわば彼女はボーカロイドであり、ヌードルはボカロPだ。フィリップ・K・ディックもまさかこれが現代に再現されるとは思わなかっただろう。ハーブアッシャーは、リンダ・フォックスの音楽を聞きながらCY30-CY30Bで引きこもり生活をしていた。ろくな仕事もせずに。現代に親和性を感じてしまう。

 そんなビックヌードルであるが、彼は決してヴァリスではない。全てを知りうる装置ではないのだ。その人工知能は膨大な入力情報から最適なものを選ぶことはできるが、一方でヴァリスは始めから解を持っていて、また無限の問いを生み出すことが出来る。人間が開発できる限界はビックヌードルあたりで、ヴァリスは創造物ではないのだろう。物語の後半では世界線が移動し、ハームスとニコラスは世界を支配する存在から、地域コミュニティの一員になる。そのときにもヴァリスは別の名前で登場するのだが、ビックヌードルの姿はどこにもない。それだけの価値しかなかったということだ。

 つづくかもしれないし、つづかないかもしれない。

苦味を所有したがる男の名前はエマニュエル/「聖なる侵入 新訳」 - マトリョーシカ的日常


聖なる侵入〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)

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