マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

可能性の高杉とコーヒーのある帰省。

 東京駅のホームは思った以上に肌寒く、色白い雪がちらちらと舞っていた。堅くなった体を伸ばしながらJR乗り換え口へと向った。隣を大きなキャリーケースを引っ張るおじさんや、赤ん坊を抱いた女性が通り過ぎていく。彼らの服装は洗練されているようで、それでいて親近感を感じさせた。黄色い案内図を頼りにホームへたどり着くと、待ち構えていたかのように電車が来た。実に都会だ。


 両親は相変わらず元気そうだった。父はあと五六年で定年を迎えるが、その後は「第四の人生」とか言ってまた何か勉強するらしい。母は放送大学へ通っていると聞いていたが、どうなったのだろう。今はヘルパーの仕事で忙しそうだ。二人とも蓄えがあるようなので、金銭面は心配していない。二人いっぺんにボケないようにね、と釘をさしておいた。夕飯は寿司とおせちを食べた。実家で作った煮物が一番おいしかった。

 夕飯後に家を出た。その日は近くのホテルを予約しているのも理由だが、東京駅で旧友と会うことになっていたからだ。元来た道を引き返すように電車に乗り、東京駅の待ち合わせ場所に向った。銀の鈴は青や緑にライトアップされていて、銀ではなかった。会うべく人はもうそこにいた。「久しぶり」「ああ、久しぶり」
 
 高杉は高校を出た時のままの身長で僕に対峙していた。彼の背の高さが、高校の部活でどのくらいのアドバンテージになっていたか、僕は知らない。あれから何度か会っていたが、あまり変わっていない。それは僕も同じだが。

 どこ行こうか、と高杉が聞いた。どこかスタバかドトールで適当に話そうと考えていたが、近くにそのような店はなかった。ふらついていると開けたスペースに出た。二十ほどのテーブルが並んでいて、飲み物を売っている店が併設していた。「ここにしようか」と、荷物で席をとり、店員にコーヒーを頼んだ。グランスタブレンドのS、460円。注文を受けると店員がその場でコーヒーを入れてくれた。ハリオ式のドリッパーに、銀色のケトルで少しずつお湯を乗せていく。彼女は手慣れたてつきでコーヒーを作り、「どうぞ」とこちらに渡した。(後で調べると、ドリップマニアというハンドドリップをコンセプトに掲げた店だった)席に帰ると、荷物番をしていた高杉が代わりに飲み物をとりにいった。彼はすぐ帰って来た。オレンジジュースを持っていた。もしかしたらコーヒーは嫌いなのかもしれない。

 コーヒーはおいしかった。芳醇な香りを紙カップの蓋がぐっと抑えていて、能ある鷹は爪を隠すを体現していた。味はスタバやドトールよりもずっと丁寧なものだった。しかし、460円は少し高い。高杉といくつかの話をした。仕事や旅行のこと、趣味や彼女のこと。結婚は考えているか、と尋ねると「もう少し遊んでいたいな」と答えた。そうだろうな、遊びたいよな。僕はときどき可能性のことを考えた。歩くにつれて枝分かれする道の数が少なくなるイメージを抱いた。結局選ぶのはひとつなのだから何も関係ないことだが、それでも両脇にたくさんのゆらぎを抱えていたかった。

 つづく。

ハリオ V60コーヒーサーバー 700 VCS-02B

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