マトリョーシカ的日常

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リーン・スタートアップを否定する、完全計画世界/「ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか」

逆張りで語る真実

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ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

 ピーター・ティールを知っているだろうか。彼は一九九八年にネットを利用した決済サービスであるPayPalを創業し、二〇〇二年にイーベイに十五億ドルで売却。その後は、独立国家創設やシンギュラリティ、英才教育実験等、独創性のある様々な計画に投資を続けている。PayPalの創業メンバーはPayPalマフィアと呼ばれ、今日のシリコンバレーで強い影響力を持っている。

 この本は彼が大学生向けの講義「起業論」の内容を中心にまとめたものだ。タイトルの通り、ゼロから1をつくりあげる方法を書いている。しかし、具体的なノウハウは何も示していない。ただ考え方を提供しているだけだ。しかし、彼の考え方は今までの常識とは正反対のものであり、しかも読んでいくうちにそれが真実である事が分かってくる。

 オレンジ色の表紙に引かれて手に取ったが、中身を読んですぐに買うことに決めた。いつもはビジネス書なんて全く買わないのだが、この本にはそれらとは異なる引力があった。「大事なことが書かれていそうな気がする」と。瀧本哲史さんが序文で登場しており、ウェブではびこっている薄っぺらい内容のものではない、と述べた事も僕の背中を押してくれた。定価で買った。本当に良かった。

テクノロジーの進歩が止まった現代

 ここ二三十年、世界は大きなテクノロジーを生み出していない。核爆弾が発明され、有人宇宙船が月へ降り立ったのは五十年も昔のことだ。アーサー・C・クラークの『二〇〇一年宇宙の旅』では、人間が宇宙を飛び回っている未来を描いているが、結局そんなことにはならなかった。今でも車は地上を這いつくばり、僕らはムーアの法則で倍々に増えていくメモリを、140字を呟くことやカラフルなパネルを揃えることに費やしている。

 ティールはテクノロジーが停滞している原因を、『明確な楽観主義』を持たないせいだとしている。彼は人々が未来に対する感情を四つに区分した。明確かあいまいか、楽観か悲観かの組み合わせだ。現在アメリカが陥っているのは『あいまいな楽観主義』だという。先の事はよくわからないがきっといいほうに進むだろう、最適化されるだろう、進化するだろう。ダーウィンが唱えた進化論のように、誰が意図せずとも環境に適応する方向へ変身することを望んでいる。そんな時代では金融業が盛んになるらしい。お金を稼ぐ方法が分からないときでも、金貸しは利益を上げるからだ。そう考えると、いまの日本も『あいまいな楽観主義』を抱いているかもしれない。

 明確な楽観主義を持つためには、明確な方針を持たねばならない。彼は起業するにあたり、はっきりとした考えをもっていた。独占企業をつくることだ。

競争はするな。独占しなさい。

 「独占は、すべての企業の成功条件なのだ」。これが常識とは正反対の真実だ。独占企業と聞くと、競争相手がいないためサービスが悪く、顧客からカネをむしり取るような価格設定をしているイメージが強い。しかし、ティールは独占企業が責められるのは「世界がまったく変化しない場合だけ」と言っている。世界が変化する限り、僕らは新しいものを発明することができる。それと同様に独占企業は消費者に多くの選択肢を与えている。一般に、競争企業は発明ができるような精神的余裕がないためだ。

 グーグルのような独占企業は違う。ライバルを気にする必要がないため、社員やプロダクトや広い社会への影響を考える余裕がある。(中略)
 カネのことしか考えられない企業と、カネ以外のことも考えられる企業とでは、ものすごい違いがある。独占企業は金儲け以外のことを考える余裕がある。

 実際、Ingressはグーグル以外では運営できないだろうサービスだ。世界規模の仮想空間をフィールドにし、数えきれない人がプレイしている。しかし広告もプレイ料金もなく、完全無料(リアル課金は別)で遊ぶ事が出来る。彼らはいったいどこで収益を出しているのか、もしかしたらこのゲームは収益を出すのが目的ではなく、別の目的があるのではないか。とにかく、恐ろしいサービスだ。

 独占企業になるにはどうすればいいのか。今までにない魅力的なサービスをつくるにはどうすればいいのか。ティールは独占企業の特徴として以下の四つを挙げている。

  • プロプライエタリ・テクノロジー
  • ネットワーク効果
  • 規模の経済
  • ブランディング

 ひとつめのプロプライエタリ・テクノロジーは、とんでもねえテクノロジーと訳せばいいか。他社の技術と比べて圧倒的(ティール曰く10倍)なアドバンテージを持っていることだ。10倍と聞くと、難しく感じるかもしれないが、他に誰もやっていなければその技術差は無限大だ。ネットワーク効果やブランディングは割愛する。規模の経済とは、利用者が増えても運営できるような仕組みをあらかじめ構築しておくことだ。

 重要なのはこれら全ての要素をスタート時から計画し準備しておくことだ。ティールは流行のリーンスタートアップを非難している。ちょこまかと既存のサービスを改善していくだけでは、全く新しいものは生まれないからだ。ZERO to ONE、ゼロから1を生み出さない。

 また、ティールは独占を築くには小さい市場から始める事が重要だとしている。小さいほうが失敗しても傷は浅いし、独占しやすいからだ。実際に、彼はPayPalをイーベイでの取引を生業にしている人たちをターゲットに絞って宣伝を行った。

勇気が沸いてくる本。

 他にもシンギュラリティやシリコンバレーの歴史、エネルギー2.0など様々な話が書かれていて、どれも興味をもって読む事が出来た。この本を読んだらすぐに何かが変わるかというと、そんなことは決してない。しかし、「僕が何かをつくれば何かが起こるかもしれない」と作る勇気が沸いてきた。自分がどこまで出来るかわからないけれど、ゼロから1を生み出してみたい。

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか