マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

【再読】歴史が含まれたことばたち/「ホメーロスの英雄叙事詩」

読み直すホメーロス。

 一度読んだはずなのに覚えていない。そんなことがままある。今までは「読んだ本の内容を全部覚えているのは無理。記憶が消え去るのは当たり前」と開き直っていたが、さすがにほとんど忘れるのはよくないなと思い返し、再読を試みる。

 ホーメロスは西洋初期の文学作品である『イーリアス』『オデュッセイア』を書いた詩人である。もっとも、文量が多い事甚だしいのでその二作品が彼一人で完成されたとは言い切れない。時代とともに内容が補填されたり修飾されるなどしたのだろう。二作品はどちらもギリシャのトロイエー戦争を中心とした話であり、時系列的にはイーリアスが先になる。どちらもゼウスやポセイドンなど、ギリシャ神話の神様が数多く登場し、キャラが多すぎて描き分けに苦労するサッカー漫画のような展開になる。書きたいことはたくさんあるが、今回は『イーリアス』『オデュッセイア』がつくられた歴史背景について覚え書きをしておく。

 ギリシアの歴史は非常に長い。長過ぎていったいどこから始まったのかも分からないくらいだ。本では紀元前五千年くらいから新石器時代が始まり、二千五百年頃から青銅器時代(ヘレディック)が興ったと書かれている。(wikiの説明とは異なるようだ) ヘレディックは初期、中期、後期と分かれており、初期はBC2500~BC1950、中期は~BC1600 後期~BC1200 となる。紀元前二千年頃に東の方から民族が戦車(馬)に乗って攻めてきて、堅牢な城を作り力をつけていった。彼らが興した文明がBC1600年頃のミュケーナイ文明とされている。

 この文明はBC1200年頃に滅び、それ以降はしばらく暗黒の時代がつづく。

ことばと歴史。

 ギリシアの英雄時代は、神話の面からもミュケーナイ文化の遺跡とよく一致している。いま一つ附け加えておくと、『イーリアス』の第二巻後半の、ギリシア軍の表の地名が、これまたミュケーナイ時代の中心となる遺跡のある所と一致する点が多いということである。
(中略)
これを裏返すと、ミュケーナイ時代の記憶、或はその記録とも称すべきものが、ここにかなり忠実に伝えられているという事である。

 著者によると、『イーリアス』は単なる創作ではなく、歴史的な成分が含まれているようだ。文学作品は、それが面白いものならば万人に読み継がれる。さらに、ためになるなら教育にも使われる。当時のギリシャでは論語のように、ホメーロス作品を子供に暗誦させたらしい。DNAのように脈々と引き継がれるその媒体は、歴史家にとっても絶好の素材だったのかもしれない。

 ホメーロスは詩人だったが、その時代の文字や言葉の価値は今よりもずっと貴重だったに違いないから、彼はある種の魔法使い的な存在だったのだろう。「言葉ひとつで世界がかわるさ」という安っぽいJ-POPの歌詞を体現していた、不思議な時代。

ホメーロスの英雄叙事詩 (岩波新書)

ホメーロスの英雄叙事詩 (岩波新書)