マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

Ingress初心者日記 第四回 「ポータルキーの罠」

ぼくはえんらいてんど。

 いつもと変わらない土曜の夜だった。社外研修から帰宅した僕は、Russell Hobbsの電気ケトルで湯を沸かしコーヒーを入れた。一昨日からコーヒー豆を切らしていて、今はネスカフェのインスタントコーヒーを利用している。フィルターも使わずにカップに粉を入れ、お湯をそそぐだけだ。なんだかカフェインを栄養素のように補給している気分になる。スリープ状態になっていたmacbookを開くと、chromeの検索窓に「intel map」と入力した。ingressの世界地図である。僕の住んでいるところは青(レジスタンス)が強く、所属している緑(エンライテンド)のポータルはぽつりぽつりと点在している。遠くから眺めると、青い布地にカメムシが付着しているようである。ためいきが漏れた。

「もうだめだ。このままではXM*1を利用した革新的なイノベーションを起こす事が出来なくなる」

 しかし、地図を動かすと、昨日まで存在していた青のリンクが途切れている箇所を見つけた。さらに、重要な拠点である公民館ポータルが青から緑に変わっているではないか。そこから緑色の長いリンクが一本飛んでいた。その先は、見知らぬポータルだったが、自宅から一キロ圏内に存在していた。脳内に電撃が走った。

「自宅最寄りのポータルを、公民館と、unkownポータルにリンクすれば、巨大なCFが作れる!」

 充電されたiPhoneと小銭がわずかに入った財布を持つと、僕は家を抜け出し自転車に飛び乗った。星がいくつか見えた。

山を登る

 CF(コントロールフィールド)を作るにはいくつかの条件があるが、なにはともあれポータルキーが必要だ。*2キーはポータルをハックすることで入手できる。(100%ではないが。)まずは見知らぬポータルの処までいかないといけない。一旦自転車を降りると、スキャナー(iPhone)を起動させ、そのポータルの位置関係を調べる。どうやら今の道をまっすぐ行き、途中での大きな交差点で右に曲がればよさそうだ。あとは道なりにいけばいい。僕はまた自転車に乗ると、交差点まで急いだ。週末のエージェントはアクティブだ。自転車野郎はもちろんのこと、車と併用している奴までいる。神出鬼没、いつどこに現れるかわからない。僕の巨大CF計画も水の泡になりかねないのだ。

 交差点の右の道は急勾配の坂道になっていた。「聞いてないよ」と思ったが、ここでめげてはエージェント失格。ママチャリから身を乗り出しペダルを回した。すぐに終わるだろうとたかをくくっていたが、なおのこと続く坂道。道路は三車線、二車線、一車線とどんどんと細くなり、ふもとの街は小さくなっていく。「ッショ!」巻島よろしく、ヒルクライムに励むがペダルが重い。しんどい。とうとう自転車から降りて押して行くことにした。

My Pallas(マイパラス) 折畳自転車16インチ カラー/ブラック M-101-BK

 道路はついになくなった。近くにちょどいい駐輪場があったので、そこに自転車を止め、僕は山道に分け入った。木々によって月明かりは遮られ、完全な闇がそこを支配していた。ケータイの明かりでなんとか道を確認し、一歩一歩と足を進める。スキャナーによるとポータルはもうすぐ捉えられそうだ。歩きながらふと省みた。「一体僕は何をやってるんだ」土曜の夜、誰もいない山道をケータイを片手に進行する。はたからみたら不審者そのものだ。しかし、未知のエリアを突き進むこの感じはまるでダンジョンを攻略するようで、なんだか楽しくなってくる。

 ポータルは小さな仏像だった。登山道の中継点にありそうなそれだった。ハックを完了し、ポータルキーを手に入れた。そしてここから自宅近くのポータルへリンクを飛ばす。「LINK」をタップし、つなげたいポータルのキーを選択する。Confirmをタップすると緑色のラインがぎゅーんと飛び出していった。313APを獲得。「よし!」あとは自宅最寄りポータルと公民館をつなげるだけだ。

 もと来た道を帰ろうと振り向くと、街の夜景が見えた。神戸で観た景色と遜色のない輝きがそこにあった。
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公民館へ

 その公民館は電車で二駅の距離にある。自宅近くの駅に自転車をとめると、券売機で切符を買った。会社とは反対方向のため、定期は使えない。ためらいのない課金行為だ。電車はすぐにきた。車内は「今から飲みに行きます!」という感じの休日戦士サラリーマンや、「遊園地楽しかったー」という雰囲気をかもし出している家族連れ、「大学生」という感じのうぇーいがいた。しかし、油断は出来ない。この中にエージェントがまぎれているかもしれないのだ。

 二駅目で降りる人は少なかった。ここは街とベッドタウンの中間地点で、目新しい建物はない。改札を抜けると、近くの公民館まで歩いた。スキャナーがポータルを捉えた。目を上げると、古めかしい建物が静かに息をしていた。夜の公民館はそこはかとなく怖い。ハックしてポータルキーを得ると、さっさと「LINK」をタップした。しかし、自宅ポータルへのリンクが張れない。

 自宅ポータルのポータルキーを持っていなかったのだ。

 勘違いをしていた。リンクに必要なのは、リンク元のポータルキーではなく、リンク先のポータルキーだったのだ。僕はすぐに駅まで戻ると、自宅方面へのプラットホームへ急いだ。幸い、すぐに電車が来た。乗客はまばらだった。シートに座り、心を落ち着かせた。あと十分。あと十分でCFが完成する。1563AP*3が手に入る。

 電車のドアが開くやいなや走り出した。「土曜の夜なのになにを急いでいるのだろう」 となりのおっちゃんからそんな視線を感じた。改札を抜け、自転車に乗った。心の中で十五の夜が流れていた。


尾崎豊 15の夜 歌詞つき - YouTube

 型落ちのiPhoneと 外ばかりみてる俺

 超多重CFの上の空 届かない夢を見てる

 やりばのないMODの壁 打ち破りたい

 ビルの裏 白いポータル見つかれば XMもない

 しゃがんでかたまり リンクを張りながら

 ゲームの中ひとつも解りあえない敵勢力をにらむ

 そして仲間たちは今夜オフの計画を立てる

 とにかくもう学校や家には帰りたくない

 自分の存在が何なのかさせ解らず震えてる
 
 十五の夜———


 目的の緑ポータルへ着くと、スキャナーを開きLINKをタップした。こちらから公民館へリンクをつなげるには、公民館のポータルキーがあればいい。が、リンクが張れない。もしやと思い、公民館のポータルキーを確認した。ポータルキーはリンクを張る他にも、遠隔リチャージを行えたり、ポータル周囲の映像を観ることができる。はたしてそこには憎き青の刻印があった。レジスタンスにとれらたのだ。僕が電車に乗っていた十分かそこらの間に。


 家に帰った。テーブルには飲みかけのコーヒーが残されていた。口に含むといつもより苦いような気がした。なんてことのない日常だった。ingressのある日常だった。

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