イノベーションと変化
イノベーションは、既存のものの組み合わせにより生まれる。それゆえ、アイデアは全てが新鮮でピュアである必要はなく、むしろ手あかのついたものにこそ価値があるのだ。そのような体を後ろ盾にして、僕は日々手あかのついた作業着を着回している。機械油のよるシミは、何度洗濯しても落ちる事はなく、いつまでも布地に横たわっている。シンナーにわさびを入れたようなあの匂いは落ちるので、それは不幸中の幸いと言えよう。
『僕は君たちに武器を配りたい』は、若者に向けられたこれからの社会への指南書だ。内容は多岐に渡るが、要約すると「普通の勉強はだめよだめだめ。すごいことをやらかさなきゃ」となる。判りやすい内容と、オプティミズムに溢れたその文体は、若い意識高い学生を中心に高い評価を得ている。コモディティや、マーケティングなどの横文字の単語がいちいちかっこいいのも実に好ましい。冒頭に書いたイノベーションもその一つだ。
今すでにあるものの組み合わせを変える。見方を変える。そうすることによってイノベーションを起こす事ができるのだ。
ただ、残念なのは変えただけではなにも起きない事だ。変化というのは、プログラムで言えばコードの修正にあたる。指先ではじく側から実行されるのならそれは素敵なことだが、ありえない。「あるよ」と言われるかもしれないが、それは目に見えないスピードで動作が切り替わっているだけだ。心の実装ボタンを押さない限り、イノベーションは起きないのである。
そのボタンはどこにあるのかと疑問に思うかもしれないが、僕もよくわかっていない。遠い星の裏側かもしれないし、自販機の下にあるかもしれない。ただ確かな事は、自分のボタンは自分で押す必要がある、ということだ。孫の手よろしく、かゆいところに手がとどく道具は存在しない。あなたがコンパイルしないと物語は始まらないし終わらないのだ。
おわり。
僕は君たちに武器を配りたい エッセンシャル版 (講談社文庫)
- 作者: 瀧本哲史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/11/15
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る