1.
珈琲を一日に二回も挽いた。朝の一杯はわずかに酸味があり、帰宅後の一杯はどうしようもないくらい苦かった。おなじ豆から挽いたのにどうしてこうも違うのか。もしかしたら、夕方のほうが豆が細かかったのかもしれないし、お湯も熱かったかもしれない。
2.
0655の番組の「きょうの選択」という歌が好きだ。ピース又吉が「どっちにしよう」と歌いながら、朝食や洋服や読む本を決めていく。その選択によりラストが変わり、鳥にふんをつけられたり、女性に帽子を拾ってもらったり、千円札を拾ったりする。歌詞から考えると、全部で十六通りの結末を迎えるはずだが、まだ全ては観ていない。
「きょうの選択は/あなたをどこへ連れて行く?」
3.
鋼を曲げた。丸棒を万力で挟み、ハンマーで叩く。ほんとのほんとに直角にするのは難しい。どうしても開きがでてしまう。それらをタカハシはそつなくこなす。僕はタカハシを尊敬する。「君は不器用をなおさなくてはいけない。なぜなら器用さは全てを完全にするからだ」という、話を聞いた。村上春樹のように脚色をしておいた。
4.
大学のころの意味のない活動を思い出す。何一つ得るものはなかったが、それらしい経験値はもらっていた。金もなく、ただ時間だけがあった。僕はいろんな可能性に手を出しては、両手で持って放り投げていた。能力値を振り分けては、セレクトボタンを押してリセットしていた。
すてきなサムシングを探すたびに出ていた。
5.
旅から帰ってきたはいいが、ここはどこなのだろう。
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