小説とは文脈だ。そして、小説を読むことは文脈を拾い集める旅のようなものだ。生まれていくばくかの物語を頭にインプットし、そこで話されている会話やなされている展開を、僕は採取し続けて来た。標本のように枠にきちんと収まる代物ではない。それは地層のように徐々に空白地帯を埋めていく。
Phillp.K.DickはSF小説作家であるが、非常に素晴らしい文脈を数多く切り取る、きりとりすとでもある。僕の考える非常に素晴らしい文脈は、淀まない流れとときどき光るLEDてきなあれを秘めているそれだ。
空間の排他性は脳が知覚を司るときの脳の働きに過ぎません。脳は相互に排除しあう空間単位ごとにデータを規制します。無数の空間単位です。理論的には数兆ですが。しかし、本来、空間は排他的なものではないのです。事実、本来、空間はまったく存在しないのです。
完璧だ。
『流れよ我が涙、と警官は言った』の話をする。テレビショーで超有名なタレントのタヴァナーは、ある朝目覚めると、だれも自分のことを覚えていないという不思議な事態にでくわす。連れ添った愛人でさえ彼の存在を知らないのだ。さらに世界のデータバンクにもかれのデータはなく、彼は社会的に存在を抹殺されていた。
こんなふうに書き出すと、陰謀説を唱えたくもなる。しかしそうではなかったのがPKD文学だ。この小説のテーマは愛だ。僕が愛をとやかく語り出すとそれはそれは薄っぺらくなりそうなので、深く書くのはよそう。しかし、愛というのは悲しくなんだか知らぬ哀愁を受け入れることなのだ、と物語の中で誰かが言っていた。それゆえ涙を流すのだ。
- 作者: フィリップ・K・ディック,友枝康子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/02
- メディア: 文庫
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