夏の小説家、森絵都
台風が過ぎたと思ったら一気に夏が来た。実際に夏が来た訳ではないが、僕が「夏が来た」と思ったから夏が来たのだ。秋も冬もそして春も、このようなふんわり具合で行き来するのだろう。入道雲の気配がする。ごわごわと堅くなった空気が、瞬間ほぐれてそこから強めの扇風機がぐわんぐわんとなびく。蝉は鳴かないし甲子園の音もない。しかしそれでも熱い。
夏はどういうわけか森絵都の小説を読みたくなる。DIVE!!を始めとして、彼女の小説はさわやかで切なくて、どこか湿っぽい。僕は中学一年生の時に「カラフル」を読んだが、あれは衝撃的だった。詳しくは思い出せないが、ベットシーンらしきものがあったのだ。「え?学校の図書館でこんなものが置かれていていいの?」と、幼いながらドギマギして出来上がったのが今の僕なんだ。学校の先生って、本の内容を全て検閲しているわけではないんだなー、って思いながら。
そんな夏の小説家、森絵都のデビュー作が『リズム』だ。ようやくリズムの話になる。先週、リズムの話をした気がするが、別段だれも気にしないだろう。三拍子四拍子、長調短調、エイトビート、ツーシーム、フォーシーム。みんな違ってみんないい。
本のあらすじ。さゆき、中一の夏。幼なじみの真ちゃんが好き。彼は高校も行かずにバンド活動に精を出す。ある日、昔からさゆきと親しかった真ちゃんの両親が離婚する話を耳にする。追い打ちをかけるように、真ちゃんがメジャーデビューを夢見て都会へ出て行くことを聞く。どうなる、中一。
内容はどうってことのない話だ。変わらないと思っていたものが、形を変える。大人になるとよくも悪くも「慣れ」が生じて、無常の法を体で理解する。しかし、子供にとってそれは恐怖でしかない。中学生のさゆきに、これまでの人生で最も大きな変化が起こっていく。彼女はもがき苦しみながら、それでも何かと適当に折り合いをつけていこうとする。
それが大人になるっていうことなんだけどね。哀しいね。大人って。
「さゆき、自分のリズムを大切にしろよ」
「リズム?」
「うん。いつも言ってるけどさ、一番大切なのはリズムなんだ」
窓辺の勉強机へと歩みより、引き出しのなかをまさぐりながら、真ちゃんの背中が語りかけてくる。
リズムと武蔵。
自分のリズムを大切にしろよってことは昔から言われている。どのくらい昔かというと、宮本武蔵が言ってたからそのくらいの話。彼っていつの人だっけ。戦国時代かな。武蔵はリズムを「あふ拍子」や、「背く拍子」、「あたる拍子」のように分類する。特に背く拍子は重要で、相手のリズムに逆らい、それを崩す作用がある。生き死にの真剣勝負をしてきた武蔵さんには、常にエイトビートの世界が見えていたのではないだろうか。
この世の中は何で出来ているのか、何によって支配されているのか。そう考えたときに、以前五体七十五法を紹介したことを思い出した。世界の構成要素にリズムがあるとしたら、それはどのあたりの位置取りをしているのか。おおよそ、有為法の色法、耳根(にこん)にあたるはずだ。しかし、僕はリズムにもっと大きな可能性を感じる。単なる音のつながりではなく、周波数のスペクトルのような、思考や色のきらめきのような、そんな雰囲気。
何を言っているのか自分でも分からなくなってきた。今日のまとめは「中学生時代にノルウェイの森を読んでみたかった」に尽きる。
- 作者: 森絵都
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/06/25
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