マトリョーシカ的日常

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【書評】ロボットは嘘がつけるか。/「2001年宇宙の旅」【感想】

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決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

 ヒトザルたちのまえに現れた一体の石碑(モノリス)。それは彼らを特殊な波動によってテストし、今日の人類に進化するきっかけをつくった。それから三百万年後の現在、月の地中で同様のモノリスが発見された。1対4対9の寸法でそびえたつそれは、果たしてどんな意図をもって建設されたのか。2001年がまだ遠い未来だったころのSF小説。


 印象深いシーンは何と言っても電子脳ハルの反乱だ。土星へ向かう宇宙船の中で、彼は作業員とともに着実に業務をこなしていた。しかし、ある日ハルはひとつ部品を「故障している」と間違って認識してしまう。作業員が部品に対していくつかのテストをしたところ、それは正常に動いていた。それ以降、ハルは通常では考えられない行動をするようになる。結果として作業員を一人を除いた全員が死亡してしまう事態になった。

 こうしたハルの誤作動の原因は何か。

 サイモンスン博士の理論を、ボーマンは容易に信じることが出来た。プログラムの矛盾が、ハルのうちに無意識の罪悪感をつくりだし、地球との連絡回路を断つ行動をとらせたという見かたである。

 作業員は五名いたのだが、実は本ミッションの真の目的を知っていたのは冬眠状態に入っていた三名とハルだけだった。残りの二人に目的を隠す必要があった。ロボットであるハルにとって公開と秘匿という矛盾したプログラムは大きな負担であった。天秤を水平に保つために彼が行ったのが、命令の無視であり乗組員の除去だった。一種の防衛本能のようだ。ハルにとって嘘をつくのは非常に難儀なことに違いない。

 僕は呼吸をするように嘘をつく。しかし「相手をだましてやろう」という悪意はない。自分が話しやすいように、どもりが起こりにくいように話の中身を改変してしまうのだ。そういったことに慣れすぎて、最近は嘘をついているのかいないのか自分でもよく分からない時がある。危険な気がする。

 嘘をプログラムに落とし込むのは難しい。あるひとつの評価関数があり、それを最大化するように現実と嘘の比率を探索する。そんな一種の最適化計算を行うことは出来ないのか。どんな形の関数にするかという問題があるが。

 嘘をつくことはをひとつの創作活動だ。漫画やフィクション小説を書く人は常に嘘を吐き続けているし、脚本やお笑いのネタを考える人も現実に嘘をうまい具合に練り込んでいる。だとすると、ロボットが嘘をつけるようになる日というのは、彼らが0から何かを製作できるようになる日でもある。

 エイプリルフールに率先してほらをふく、おおかみ少年ロボットを待ちたい。


決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)