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【書評】時間をかけて読みたい推理小説/「緋色の研究」

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緋色の研究 (新潮文庫)

 先日欲しいものリストから本を二冊頂いた。そのうちの一冊はこのまえの記事で紹介した芥川竜之介の「羅生門」であるが、今回はもう一冊の方を紹介しよう。名探偵ホームズシリーズの第一作である「緋色の研究」だ。コナンドイルの作品は今まで何度も読むチャンスがあったはずなのにことごとく回避していたため、この本をもらえたことに感謝したい。ありがとうございます。


 物語はホームズとワトスンが出会うところから始まる。敵国で病にかかり帰国したワトスンは政府から休暇を与えられ、ロンドンで怠惰な日々を過ごしていた。しかし生活費に困り新しい下宿を探していると、友人づてにルームシェアをしたがっている人物の存在を聞く。それがホームズだった。ともに過ごすうちにワトスンは彼の特異点を発見していく。だれもが知っているような教養や常識にはまったく疎く、逆に化学や解剖学の知識はとても深い。バイオリンや棒術、または剣術に精通している。また顧問探偵という非常に珍しい職を手にしている。

 読んでいくに連れてホームズの人間性に惹かれていく。自分が興味を持つことには全力で打ち込み、一方でさらりと才能の無駄遣いを行う。熱心なのか飄々としているのかつかみどころのない人間なのだ。彼の言葉で印象に残っているものがある。

「僕はおもうに」と彼は説明した。「人間の頭脳というものは、もともと小さな空っぽの屋根裏部屋のようなもので、そこに自分勝手にえらんだ家具を入れとくべきなんだ。ところが愚かなものは、手当りしだいにこれへいろんながらくたまでしまいこむ(略)

 その後には優れた人間は自分の頭にいれる知識を吟味ししまい込み、それらを整理整頓しておくと書かれている。ホームズは食わず嫌いで教養を学ばないのではなく、自分に必要がどうかを判別した上で知識として必要ないと判断していたのだ。最近はどこへいっても情報の嵐で気がつくと自分で考える暇がなくなってしまっている。彼のように情報の取捨選択を行い、屋根裏部屋に余白を作っておくのが大事なのではないか。

 肝心のストーリーも面白い。はじめはそこに死人がいるという結果だけが存在し、情報が雑多で把握しづらい。しかし話が進むに連れてホームズの小出しヒントからぽつぽつと全体像が見えてくる。そして後半からの解決編で「あぁなるほど!」とひざをうつことができ、ぱたりと話が終わる。

 前半の最後でホームズは犯人を捉えており第二部へ進む前に自分でも推理してみようと思ったが難しかった。彼は自分の論理の展開または考え方を分析的推理と読んでいる。通常の人はAが起こってBになるという風に矢印の向きで考えを進めていく。これは総合的推理というがホームズの場合は逆向きに考えを進めていくのだ。僕は因数分解を応用した暗号技術のようだと思った。43と29の積が1247となるのは容易に計算できるが1247が何と何の積なのかを知るのは難しい。彼のように逆向きに考えることができれば暗号も解けてしまうのだろう。

 総合すると非常に面白い本だった。名探偵コナンのように分かりやすい内容だったが、アニメと違うのはこちらに考える時間が多くあるという点か。

 時間をかけてゆっくり読むのを悪くない。