マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

万年筆をなくした。

 万年筆をなくした。正確にはキャップ以外をなくした。僕がいつものように携帯をいじっているとパタリと野帳とそれにつけたヤングプロフィット細字が床に落ちた。座席を立ちドアへ向かうサラリーマンに拾われた。ありがとうございますと会釈して野帳を見るとそこには万年筆のキャップしかささっていなかった。ポルナレフを思い出したが誰も時を止めることなどできない。僕は思い出すことにした。最後に使ったのはいつだ。しかしどう頑張ってもキャップしかささないということはありえない。可能性が高いのは僕が携帯をいじっている間にペンの部分のみが落ちてしまったことだろう。


 いま思えばあの時勇気を出してみなさん足元に黒い万年筆が落ちていませんか、あったら教えてくださいと言えばよかった。万年筆は消えはしない。あの時間あの車両の中に確かに存在していたのだ。


 結局僕は目的の駅で降りた。駅員に落し物の届けを出したが返ってくる保証はない。野帳にはさまったキャップを見ると悲しい気持ちが溢れてきた。なんだこの喪失感は。今まであらゆるものをなくしてきたがこんなに悲しいのは初めてだ。手元に収まる細いフォルム、自分の癖に最適化された書き味、手頃な重さ。世界中を探してもあの万年筆は唯一無二の僕の万年筆で、どこにも代わりはないのだ。

 失恋をすると似た気分になるのだろうか。僕は分からない。だけれど本当に、これ悲しいな。涙は出ないけど。


セーラー プロフィットスタンダード ブラック 中字 11-1219-420

セーラー プロフィットスタンダード ブラック 中字 11-1219-420