自分がこれほど単純作業に向いている人間だとは思わなかった。
先日おせちづくりのバイトを始めた。とても面白かった。昼食休憩以外ずっと立ちっぱなしだったが八時間の労働もあっという間に終わってしまった。作業内容は左から流れてくる容器に黒豆を三十グラム詰めて下流へ流す。それだけ。延々とそれだけ。なんて退屈なんだと思う人もいるが実はこの黒豆入れはかなり奥が深い。
まず何回かやると三十グラムが手感覚で会得できる。は!これは三十グラム!という具合に。そのうち掴まずとも豆を見るだけでそれが何グラムかが分かるようになる。そうなればあとは掴んでは入れ掴んでは入れの繰り返しをするだけで終わる。しかしそれは基礎的なものだ。この黒豆は唯一無二の黒豆であって世界でこれと同じ黒豆はいない。また盛りつけ方の数も限りなく、ベルトコンベアに置く場所も自在だ。つまり無限。黒豆は無限なのだ。こうしておせちバイトは立禅と同義となる。
作業用BGMも頭の中でかけ放題だ。今日はおにぎりマシンの出す音が「ずんちゃちゃっ、ずちゃっ」と聞こえてきたのでリズムに乗ってルージュの伝言を再生した。容器を手にとり黒豆を入れ計りにのせる。三十グラムでコンベアに流す。バックミュージックつきで。これだけの工夫でただのバイトがなんとも楽しくなってくる。
この曲を知ったのはジブリではなく小学校の先生からだ。彼はギターをあやつる熱い先生で帰りの会によくギターの伴奏に乗ってみんなでいろんな歌をうたった。ルージュの伝言はその一つだった。浮気とかバスルームとか大人な単語が出てきて当時の僕にはいまひとつ彼女の心境が理解できないでいた。今はどうだろう。
先生は今どこにいるのだろう。そしてあのころ一緒だった友達は何をしているのだろう。流れる大量の黒豆を相手にしながらそんなことを考えていた。そんな年の瀬。
今週のお題「私の年末年始」
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