マトリョーシカ的日常

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【書評/感想】アンドロイド電気羊に並ぶSF小説の名作/「ユービック」

ジャケ買いならぬ表紙買い

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ユービック


 反エスパーたちを派遣、管理するランシター合作社はとある月面への依頼に精鋭十数名をともに月へ向かう。しかしこれは依頼者の罠であり宇宙空間で爆発に巻き込まれてしまう。ランシターは死亡したが、ジョー・チップらは命からがら帰還する。地球へ戻ると周りのあらゆるものが時間に逆行していく現象に襲われる。原因を探すジョー・チップはこれに対抗できる唯一の手段ユービックの存在を知り、それを探し求めるのであった。

 アンドロイドは電気羊の夢を見るか? マイノリティリポートなどでおなじみのフィリップ・K・ディックの傑作。表紙に目を奪われて思わず買ってしまった。


反エスパーとエスパー

 時代は1992年。千里眼、予知、テレパスなどの超能力者によって人々の生活は脅かされていた。エスパーに対抗する力を持っているのが反エスパーであり、彼らを派遣するのがランシター合作社のCEOランシターだ。超能力は脅威でもあるが、使ってみたい衝動は誰にでもあるはずだ。また個人単位だけではなく企業政府国家単位でも需要があるだろう。現に彼ら超能力者はホリス・異能者ブロダクションというところから派遣される者が多い。秘密を暴きたい人、守りたい人、いろんな人がいる。

 しかしエスパーの被害にあっても確かな感覚はない。ランシターはあなたは日夜エスパーの被害の合っていると消費者に刷り込み反エスパーを利用させるのだ。どっちが悪者なのか分からない。

半生命

 この世界では半生命というシステムがある。死後も安息所で一通りの手続きをすると死者と一定期間交流ができるのだ。人間にバッテリが内蔵されていると思えばイメージしやすいだろうか。遺体を冷凍保管室に置き連絡をとりたいときだけ器具を接続し周波数を合わせて彼らの声を聞く。

 こんなことをしたら死生観も変わる。誰かが死んでもまた後で会えるからいいかと死を軽く扱うようになるかも。高校生が卒業するときに「またすぐ会えるだろう」と悲しまないように。

全て金で動く

 物語の重要な要素にコイン、現金がある。作中ではドアを開けるのにもドアに小銭を払わなければいけないのだ。ジョー・チップはお金の管理が出来ない人物で、借金を作ったり請求書に埋もれるような生活をしている。当然小銭もあるはずがなく、ドアを開けるのもひとくろうだ。

ドアは開こうとしない。そしていう。「五セントいただきます」
彼はポケットをさぐった。もう硬貨はない。一枚も。「あした払う」彼はドアにそういって、もう一度ノブを回した。こんどもドアは堅くロックされたままだ。

 一人でドアノブと会話している光景はなんともシュールだ。

 近未来の話なのになぜコインなんか使うのだろうと思うがこれは大切な意味がある。後半から時間が逆行し出すがそれを知るきっかけになったのは一枚のコインからだ。コインは普遍性がある。どんな時代のどんな場所にもあるのだ。時間をテーマにした「ユービック」でコインはひとつの指標というかステータスになっている。

得体の知れない力に襲われる様はまさにジョジョ

 さて月から帰還した反エスパーたちは周りのものが時間に逆行していく現象に襲われる。朽ち果てるタバコ、賞味期限の切れた食品、前時代的なエレベーター。なんだかよくわからないけど、やばい。恐ろしい力が徐々に浸食してきてやがて破滅を呼ぶ。読んでいてジョジョを思い出した。

 ただ時間逆行現象に対抗する別の力も働いている。爆発によって死んだはずのランシターから次々にメッセージがやってくるのだ。ランシターの実体化現象。そしてランシターは時間逆行に抗える唯一の特効薬、ユービックを教えるのだ。

おわりに

 いま僕の中でSF小説が熱い。特に昔からの名作は読みごたえがあって一回読んだだけでは分からないことも多い。あとになってもう一度読んで「ああそういうことだったのか」と思える日が来ることを願う。それにしてもミスリードの多い作品だった。