マトリョーシカ的日常

ワクワクばらまく明日のブログ。

【書評】砂とバスとタダ飯と/「深夜特急〈4〉シルクロード 」

体調は万全。いざロンドンへ。

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深夜特急〈4〉シルクロード (新潮文庫)

 年配のボーイからもらった薬によって体調を持ち直した沢木さん。シルクロードを乗り合いのバスでひたすら進んでいく。今回はスポットの紹介はあまりなく、移動の描写が多い。長距離バスにもいろんな種類があり読むだけで面白い。

 旅も折り返し地点を過ぎた。情熱を持ち、旅を進めながらも時折孤独が顔を出してくる。


オンボロからボーイ付きまで/長距離バスいろいろ。

 乗り合いのバスでデリーからロンドンまで。こんな目的で始まった沢木さんの旅だから、バスに乗っているシーンが多い。一口にバスと言っても様々なものがあるようだ。四巻の冒頭に乗るパキスタンのバスはデリーのそれよりずっと凶暴でエキサイティングなものらしい。あらゆるクルマを追い越す。もちろんバスも。しかし追い抜かれるバスも加速するので二台は並行してカーレースを始める。さらに向こう側からバスが走ってくるのだ。三台のだれも譲らない。しかし事故は起こさない。怖すぎるぞ。絶対に乗りたくないなと思った。

 ヒッピー専用バスのシーンも印象深い。パキスタン人二人が交代で運転するらしいが、なんとこれが初めての長距離バス運行らしい。客が集まらず沢木さんにも声を掛けてきた。彼も宿代が浮くと考え乗ってみるもこれがすんなり動くはずがなかった。書類の不備があり税関でかなり時間をとられ、おまけに監査役のポリスも同乗することになった。
 しかし長時間おなじ空気を共有するとひとは誰でも仲良くなれるらしい。国も文化も違う同乗者同士がたのしくおしゃべりをして、しまいにはポリスが「これで別れるのは悲しいからパーティでもやろうぜ」とか言う始末。
 

故郷でまっているのは「真っ当な生活」だけだ。それも悪くはないが、自分がそのような生活に復帰することができるのかどうか、不安がないわけではない。復帰できたとしても、果たして「真っ当な生活」に耐えていかれるだろうか……。
 彼らの惑いは、やがて私自身の惑いになるはずだった。

 素晴らしいときはやがて去り行き、という歌いだしで始まる歌がある。やがてが「すぐに」という意味だと知ったのは割と最近だったなあ。


 一方でシラーズ行きのバスはリクライニングで小型テレビがついたなんともゴージャスなバスだった。しかもボーイがあめやらコーラやらを無料で配ってくれる。この違いはなんなのだろう。料金は三百リアル。当時は一リアル四・五円だったらしいので1350円か。前のヒッピーバスが七ドル(だいたい1400円)だったのでかなり安い。よいサービスは話の種にはならないようで、ゴージャスバスの話は数ページで終わっている。

 時系列順で紹介したがもし最初に乗ったバスがゴージャスバスだったら、後から苦労するだろうなと思った。順番の問題だ。

タダ飯のためなら異国での百件のテレアポもいとわない!

 道中、日本大使館に寄った沢木さんはメールボックスに届いていた家族の手紙から、知り合いの磯崎夫妻が旅行でテヘランにいることを知る。しかしあと五日でテヘランを出て行ってしまうのだとか。出会うことが出来れば豪勢なタダ飯にありつけるかもしれない。いやそれ以上に日本語で自由に話せる!

急がなくてはならない。急がないと……やはり御馳走が逃げていってしまう。

 それから沢木さんはすごい強行軍で移動を開始する。無事にテヘランへつくも、肝心の宿の名前を親が覚えておらず、とりあえず日本人が泊まりそうな宿に連絡をとることに。リストアップすると百件程になった。異国の地で百件のテレアポ。たった一食のタダ飯の為にそこまでする沢木さんのパッションに深く感銘を受けた。就活でこれを話したら受けがよさそうだな。

 幸運なことに一件目の宿に磯崎夫妻はいた。よかったねぇ。

おわりに

 この旅行記も四巻目になるが、面白さがまったく衰えない。どこから読んでも夢中になれる。異国の文化を説明しているのもためになるし、筆者が孤独を感じるシーンも共感を覚える。この本が長い間読まれ続けているのが分かる。

 沢木さんは日本に帰ってきてからこの本を書いたらしいけど、途中で全く記録をとっていなかったのか。それともメモ書き程度になにか残しておいたのか。会話文も活き活きしているし当時の感情や情景もリアルに描かれている。いいなあ。

 本日はここまで。