マトリョーシカ的日常

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【書評】やられたら、またやられる。自己犠牲による倍返し/「塩狩峠」

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塩狩峠 (新潮文庫)


 時代は明治初期。東京で生まれた信夫は父と母、妹が信仰しているキリスト教をよく思っていなかった。しかし友人の吉川や彼の妹であるふじ子、その他にも様々な人との出会いを通して信夫の心は変化していく。そしてふじ子との結納に向かう車内である事件が起きた。
 何のために生きるのか、愛とはなにか。読んだあと心にずしりと残る重量感は。


 

友人との手紙のやり取り

 物語の中でたびたび行われる、友人吉川との手紙のやり取り。メールや電話ですぐに連絡をとりあうことが出来る世の中で、レスポンスに時間のかかる手紙というコミュニケーションは新鮮に思えた。

 吉川と信夫は小学校の同級生だったが、経済的な理由で吉川は北海道へ引っ越す。それから二人の文通は始まった。もっと色んなことを書きたいのになぜか書けない。ポストに投函してからやはりあれは書くべきじゃなかったのかと悩む。手紙ならではのことだなと思った。
 
 

自己犠牲の精神

 この作品のキーとなるのは自己犠牲。キリストはもう自己犠牲のかたまりのような人で、右の頬をぶたれたら左も差し出しなさいとか自分を悪く言うひとのために祈りなさいとか言う。僕はどうやったってそんなことは出来ない。自分が大事だし、知らない人に対しそこまで親切にはなれない。

 しかし信夫は違う。彼はひたむきでまっすぐで正直な人物だ。肺結核をわずらわっていたふじ子に押し花を何度も送ったり、縁談の話を断って彼女の病が治るのを待つ。そんな人だ。だからあのようなエンディングを迎えたかもしれない。

おわりに

 中学校の先生がおすすめの本の紹介で、塩狩峠をあげていた。当時は「ふーん」と思った程度だったけど、もっと早く読めば良かったな。ちょっと分厚いけど、ページをめくるスピードはどんどん加速すること間違いなし。いい小説だった。