喫茶店でESを添削するひとたち
就活という言葉が広く使われるようになったのはいつからだろう。取り上げられる頻度が増えると、言葉はどんどん短くなる。省略されるのを見越してうまいことタイトルをつくっている小説だってある。僕の父も祖父も就職活動をしていたわけだが、僕らゆとり大学生がSNSを駆使してその単語を言い合うにつれて、何バイトか削られて就活になった。
ES!豪雪!自己分析!学チカ!
かっこいいパーツをそろえてぼくのつくったさいきょうのしゅうかつせいを作り上げる!
なーんて。
相変わらず導入が苦手だ。「何者」は「桐島、部活やめるってよ」でデビューした作者、朝井リョウが書き下ろした青春就活小説だ。同じ年代の男女が就活という大きなイベントに対しあれこれがんばるお話。就活を取り上げた作品は石田衣良さんの「シューカツ!」があるが、この春卒業したてのピッチピチ社会人の浅井さんの視点から書かれた本作に比べると何となくリアリティに欠け、物足りない印象をうける。それほど「何者」は大学生が読んだらのめり込むこと間違いなしの物語なのだ。
新ジャンル:twitter記法
本作はストーリーの進行の合間あいまにtwitterの書き込みが入るという面白い構成になっている。本文中の会話文や心理描写とは違い、見えないけど見えるという位置で140字以内のつぶやきがなされている。
RICA KOBAYAKAWA @rika_0927
今日もキャリアセンターでES見てもらってから面接の練習。色んな人からアドバイスもらえて、やる気アップ! このあとは瑞月たちと集まって就活会議。仲間がいるって心強い!
意味もなくtwitterを取り上げているわけではない。ラスト三十頁からのトラウマシーンの伏線になっている。それまでは現代っ子だなぁという印象だけだったのに。
意識高い系学生()論破
一番スカッとしたのはSNS上で頑張ってますアピールをする意識高い系学生に主人公が思いをぶつけたところだ。
ずっと思ってたんだけど、ギンジ、まだやりきってない段階で、「これがんばってます」ってアピールするのやめろよ。脚本書いてたら朝になってたとか、そういうの。そういうことって、公演が全部終わった後に言うことじゃねぇの?
(中略)
見てて痛々しいんだよ、お前。
しかしすかっとしたのはなぜだろう。僕じしん、何者かになっている、なろうとしている人に嫉妬しているのかもしれない。意識高い人たちがアピールしちゃってるのもそれなりに理由はあるわけで。
「……でも、私だって、同じようなおもなのかもね」
理香さんはもう、俺のことを見てはいない。
「私だって、ツイッターに自分の努力を実況中継していないと、立っていられない」
努力の実況中継。しっくりくる表現だ。
ページをめくるごとにライフを1000払う
ラスト三十頁はまさにそれだ。僕は「うわぁぁぁやめてくれやめてくれ」と思いながらページをめくった。ネタバレになるので内容はいえない。でもこれをほんわかした青春小説だと勘違いしないでほしい。あちら側で展開されていたストーリーがいきなり僕らに振り向いてを攻撃を仕掛けてくる。恐ろしい。
想像していたよりずっと面白かった。何度か読み重ねるとさらに違った視点から見えそうだ。彼らのツイートのうち、この作品に載っているのはごくわずかなのだろう。行動とつぶやきを推測してみるのもいいかもしれない。おわり。